人事にいると、各事業部から退職者が出る旨連絡があります。
私の会社では、転職等により会社を退職する旨、意思表示があった社員については、組織内で面談を実施したうえで、私のいる会社人事で面談を実施することにしています。
退職を決めた社員の口から語られることは、耳を傾けるべき貴重な意見であり、今後の会社や事業をより良くするために必要なヒントがたくさん詰まっています。こうした退職者が発生した際に、人事としてどのような対応をするべきか、そしてどのような理由で退職を検討する社員が多いのか、それに対し我々が実施すべきことについてまとめていきます。
退職者は二分される
退職者と面談していて思うのは、退職を決意する人は大きく2つに分類されるということです。
1つは、事業で継続的に活躍しているいわゆる優秀な社員。
2つ目は(御幣を恐れずに言えば)辞めてしかるべき下位層の社員です。
つまり、現場で特筆すべき成果を上げるわけでもなく、かといって目標を大きく下回るでもない中間層の社員についてはあまり退職しない、という感覚があります。
よく大所帯の組織を2,6,2で分ける考え方があります。上位2割の層は優秀、6割は中間層、下位2割の層は不足等のある下位層。この考え方の通り、上位と下位の2割の層が退職を選択している傾向があると感じます。
優秀な社員はポジティブな理由で退職する
では事業で活躍していて、成果も創出している社員が退職を選択するのは、なぜなのでしょうか。
一言で言えば、優秀層の退職理由はポジティブなものであることが多い印象があります。たとえば、以下のような理由です。
- 現業で教育業界に対するソリューション提供に取り組んでいるが、教育業界自体の変革のためには自らが教育事業に身を置くべきだと考えた。
- キャリアアップのために始めた副業が成果を出し始めていて、今後稼働をフルコミットしたいと考えたため辞職を決意した。
- 会社で様々な職種や事業を経験して、その中で成果を出してきた。今後市場でどこまで自分の力が通用するのか試したいと考え、会社のブランドが通用しない世界に身を置きたいと考えた。
会社に対して不満があるわけではなく、自身のキャリアを中長期で描いた際に、現環境を離れることがベストであると語られるシーンが多いです。このような社員の多くは、人間関係や仕事の裁量等についてもポジティブに捉えてくれている印象があります。
下位層の社員は不満をもって退職する
一方で、直近だけでなく定点的にみてもあまり活躍しているとは言い難い社員、ここでは失礼を承知で下位層の社員と呼びますが、彼らはなぜ退職をするのでしょう。
退職面談を実施していて、下位層の社員の口から語られるのは、ネガティブな退職理由です。
- やりたい業務に従事できていないため、転職してやりたいことをやる
- 現会社でのキャリアが描けなくなったので、興味がある業界に転職する
- 周りが昇格している中で、自分は昇格できておらずモチベーションが下がったため退職する
このような社員は評価や処遇面についても不満を口にするケースが多い印象を持っています。
退職理由をそのまま受け止めるのは危険。キャリアオーナーシップに目を向ける。
上記で退職理由の例をあげましたが、本見出しに記載した通り、退職理由をそのまま受け止めることは避けるべきです。
真に目を向けるべきは、退職した社員の会社に対する”エンゲージメント”や、各種会社施策に対する手上げ歴や、上長とのコミュニケーション履歴です。
優秀層は自らのキャリア開発やスキル向上に前向きで、資格取得に励み資格奨励金を受け取っていたり、自ら会社内の施策に手を上げていたり、あるいは社内で小集団活動に取り組んでいたりと、「自らがやりたいことを、できる状態にする」よう行動できている点が特徴としてあるでしょう。
他方で下位層の社員については、そうしたすべての社員が利用したり手を上げたりできる権利について、まったく活用していないシーンが圧倒的に多いです。
この違いを一言で言えば、キャリア開発に能動的か受動的かの違いとも言え、最近のキーワードに置き換えればキャリアオーナーシップを我が事化しているか、他責としているかの違いともいえるでしょう。
そのため先にあげた下位層の社員の退職理由をそのまま捉えた場合、社員が希望する部署にもっと異動させてあげよう、昇格は致命的なNG理由さえなければ最大限させてあげよう、といった方向性の検討に進んでしまうリスクがあります。
ただし想像してみてください。これまで資格取得や研修等を活用することなく、キャリア歴だけ長くなった社員をいざやりたいことに挑戦できるポストに配置したところで、本当に成果を上げることができるでしょうか。
確かに退職を決意する可能性は低くなったかもしれません。一方で事業に対する貢献像としては低く、会社としては新陳代謝を促す観点から、退職を受け止め気持ちよく送り出す判断をすることが賢明だと思います。
退職の真因を分析する観点
以上の観点から、退職者と向き合う上で、人事として重要なのは以下です。
- 退職の申告をしている社員について、活躍度/優秀さ/事業貢献という観点で、どの層に位置するかを考える
- これまで当該社員が、自らのキャリアを実現するために、各種社内の制度や施策をどこまで活用していたかを確認する
- 社内のエンゲージメント調査等から会社に対する誇りや忠誠/愛のレベル感を確認する
- 上記を総じて、キャリアオーナーシップを体現していたか、そうでないかを考える
そのうえで本人から語られる退職理由をそのまま認識し、社内制度の変革や人事運用(配置、昇格、育成等)の見直しを行うことを検討するのか、あるいは退職理由を真に受けず、意図的に受け流すべきかを分類することが求められます。
退職者との対話を通じて、会社や事業をよりよく変革していくうえで、本観点を参考にいただけますと幸いです。
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