昇格の仕組みが企業文化を変える:実力主義時代の人事制度改革

人事戦略・制度

社員のモチベーションやエンゲージメントに直結する「昇格」について、どのような人材を昇格させるべきか、あるいはその昇格を実現するための選考プロセス等について、私の経験を基に記載します。

何をもって昇格とするのか

多くの会社は、新卒採用時には最も低い社員資格をもって入社し、以降、活躍度合いや経験に基づいて昇格をしていく仕組みを設けています。特に大手企業を中心に、当然に在級年数を設けていましたが、近年は実力に基づく評価や、社員納得性の向上を目的に、在級年数を廃止する企業が増えています

ヤマハ発動機

2025年1月から、「個人が目指すキャリア、チャレンジの実現」と「長期ビジョン実現に向けたチャレンジ」の両立を目指し、一般職、エキスパート職を対象に新しい人事制度を導入しています。

その中で、一般職については、昇格の申請要件からの在級年数廃止や飛び級導入など昇格要件・登用の運用方法を見直ししています。

新人事制度の導入について~社員のキャリアの幅を広げ、自発的チャレンジと成果創出を後押し~ - ニュースリリース | ヤマハ発動機株式会社

三井住友銀行

2026年1月から、年功序列の廃止を含む人事制度の抜本的見直しを予定しています。社員に対し設けていた階層制度を廃止し、年齢にとらわれない昇格を行う方向性を示しています。

優秀な人材を獲得するために、人事制度の変革は必要不可欠という姿勢に現れだと捉えられます。

今後、金融業界で同様の変革が開始される可能性が示唆されています。

三井住友銀行が“年功序列廃止”へ…20代で年収2000万円も可能に “異例”の人事制度改革の背景に「優秀な人材確保」|FNNプライムオンライン
三井住友銀行が、いわゆる“年功序列”を廃止するなど、人事制度を抜本的に変更することが分かった。実績によっては、20代でも年収2000万円も可能となるという。この年齢にとらわれない昇進について、街の人たちから「いいと思う」「プレッシャーになるかもしれない」といったさまざまな声が聞かれた。こういった人事制度改革は、さらなる...

NTT

NTTでは2023年4月より、専門性を軸とした新たな人事給与制度を導入しており、年次・年齢や在級年数ではなく、「専門性」を重視し、評価や給与・人事異動等が決まる仕組みへと見直しを行っています。

具体的には、新たに創設する18の専門分野ごとに求められる専門性や行動レベルを明確化した「グレード基準」を設定し、専門性の獲得・発揮度に応じて昇格・昇給していく仕組みとしています。

専門性を軸とした人事給与制度への見直しについて | ニュースリリース | NTT
NTTグループは、社員一人ひとりが今まで以上に高い専門性とスキルを獲得・発揮し、様々な分野で多様な人材が多様なキャリアを自律的に構築しながら、高い付加...

実力主義が真に是か

私も実際に、会社の在級年数廃止及び実力主義に基づく昇格を実現するために、具体的な選考プロセスの設計や運用方法を検討し、安定的に運営できる状態まで試行錯誤しながら経験を重ねてきました。

在級年数を廃止し、優秀な社員に対しては昇格をもって、より高い処遇をもって報いるという基本的な考え方について、おそらく異論を唱える人はいないのではないでしょうか。

一方で反対する人たちは大勢いるはずです。誰かといえば、在級年数という旧来の仕組みによって昇格してきた既存社員です。彼ら目線で言えばこうです。

「俺たちはどれだけ成果を上げても昇格できなかった」

「高い成果を繰り返し上げ続けて、何年もかけてようやくここまで来たのに不公平だ」

こういった意見はいずれも正しく、耳を傾けるべき実際の声だと思います。

彼らの納得を得ることなく、昇格の仕組みだけ見直したとしても一定の社員層(直近で入社したモチベーションの高い若手社員層)のエンゲージメント向上には効果があるものの、ベテラン層社員のモチベーション低下を招くことになります。

ではベテラン層や、旧来の昇格制度に不満を持っていた社員に対し、一定の納得性を得るためにはどのようにすればいいのか。あなただったらどうしますか?

導入前の告知期間と機会の公平性担保

上記にて、導入企業の例を紹介しましたが、いずれの企業も、導入時期を決めて一定期間を経たうえで仕組を変更していることがわかるかと思います。

つまり既存社員に対しては、いつから仕組みを変えるかを、十分な期間をもって事前に告知しておくことが重要です。

そして実力主義というのは、これから入社する社員だけでなく、既存社員についても機会は平等に開かれていることを示し、場合によっては激変緩和になるよう暫定措置もあわせて考える必要があります。

私自身は特に、「原則論は同意いただけるのか」にこだわりました。そもそも目指す方向性自体に理解を得られないのであれば、その先にある既存社員に対するケアについて検討の合意が得られるわけがありません。

「原則論は賛成、一方で課題や懸念がたくさんある」となって初めて同じ検討のスタートラインに立てるのです。そのため、そもそも制度を見直す趣旨や目的について合意形成を図ることが大切です。

目的が不在もしくは曖昧な状態で、仕組を変えようとしても意味がありません。仕組を変えるのは手段であって、それ自体は目的ではないからです。

優秀な人材を獲得する。高いスキルを有する社員の流出(退職)を防ぐ。社員のモチベーションを上げる。何を目的にするのか、つまり現状の課題は何なのかは会社によって異なるはずです。市場の流行りに一喜一憂せず、ご自身の会社で現状起きている課題の目線合わせから丁寧に行うことがカギです。

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