売り手市場傾向の強まりと、企業側の対応
近年、日本の採用市場は売り手市場の傾向が強まっています。少子高齢化に伴う労働人口の減少や、デジタル化の進展により、特にITエンジニアやデータサイエンティストといった高度なスキルを持つ人材への需要が急速に高まっています。
私も自社の新卒採用における面談官を数年間実施していますが、以前は「御社が第一希望です」と学生の皆さんが口を揃えて決まり文句的に言っていた言葉も最近は少しずつ変わっており「御社の他に第一希望の会社があります」「内定を頂戴したら考えさせていただきたいです」等、素直な思いを口にする方が増えてきています。
背景には企業が優秀な学生を確保するために、選考の早期化を進めており、内々定を口頭レベルでもらっている学生が増えるなど、学生の売り手市場傾向が強まっていることを実感します。
そのため企業はこれまで以上に魅力的な採用条件や職場環境を提供する必要性が高まっていると感じています。
売り手市場において、自社の優位性を明確化する
売り手市場とは
売り手市場とは、学生や転職を希望する社会人(いわゆる求職者)が、企業を自ら選び、自ら入社したい企業を選択しやすい市場環境を指します。企業の求人数が求職者数を上回り、企業側が採用活動において競争を強いられる状況とも言えます。
特にIT業界やスタートアップ、コンサルティング業界など成長著しい分野では、優秀な人材の獲得競争が激化しています。
このような売り手市場においては、従来のような「求人を出せば人が集まる」時代は終わりを迎えており、企業は求職者のニーズに敏感に対応し職場環境の改善や福利厚生の充実、柔軟な働き方の提供など、採用活動の質そのものを向上させる取り組みが重要となってきます。
詳細は後段で触れますが、私の会社でもCHROより初任給の引き上げを検討するよう言われており、報酬や処遇をもって採用市場に打って出る会社も多くなっていると感じています。
自社の優位性を考える
人気企業ランキングは世の中にあふれていますが、実際のところ、自社で採用したい学生のペルソナ像に応じて、自社がどういった企業と競合しているのかを把握することが大切です。
例えば重視する観点として、学歴、保有する専門性、軸を置くエリア等があることと思います。
私の会社はIT系の業務が主ですが、IT、コンサルティング、金融、等との競合が多いと感じています。それらの企業との処遇的な差分としては福利厚生やリモートワークの導入、キャリアパスの明確化など、働きやすさを重視する制度・運用があることだと私は考えています。
こうした業務や賃金面以外の優位性を明確化しておくことは、学生の惹きつけの観点からも重要となります。
初任給の上昇と企業の取り組み
売り手市場の影響で、初任給の上昇も目立っています。特に、大手企業や外資系企業では積極的な給与改定を行い、優秀な人材の確保を図っています。これに伴い、中小企業も初任給の見直しを行う動きが広がっています。
具体的には以下企業で採用給の引き上げを実施しています。
📈 初任給を引き上げた主な企業とその内容
🏢 大和ハウス工業株式会社
- 新卒初任給:25万円 → 35万円(10万円増)
- 実施時期:2025年4月1日入社より適用
- 背景:建設業界内での競争激化を背景に、大幅な引き上げを実施。
🏢 カプコン
- 新卒初任給:23万5000円 → 30万円(6万5000円増)
- 実施時期:2025年4月入社より適用
- 背景:優秀な人材を獲得し、人的資本への投資をさらに推進するため。
🏢 ファーストリテイリング(ユニクロ・GU運営)
- 新卒初任給:30万円 → 33万円(3万円増)
- 実施時期:2025年4月入社より適用
- 背景:国際競争力のある人材確保を目的とし、年収ベースでも約10%増加。
🏢 三井住友銀行
- 新卒初任給:25万5000円 → 30万円(4万5000円増)
- 実施時期:2026年4月入社より適用
- 背景:メガバンク初の30万円台到達。優秀な人材を他業界から引き付ける動き。
🏢 東京海上日動火災保険
- 新卒初任給:28万円 → 最大41万円(13万円増)
- 実施時期:2026年4月入社より適用
- 背景:金融業界で際立つ高水準。採用競争力を意識した戦略。
🏢 丸井グループ
- 新卒初任給:27万9500円 → 31万5000円(3万5500円増)
- 実施時期:2025年4月入社より適用
- 背景:人材確保のため、初任給を引き上げ。
🏢 KDDI株式会社
- 新卒初任給:28万円 → 30万5000円(2万5000円増)
- 実施時期:2025年4月入社より適用
- 背景:人材確保のため、初任給を引き上げ。
🏢 SBIホールディングス株式会社
私の会社も上記企業が獲得を志向する学生層の採用とバッティングすることから、初任給引き上げの検討を開始しているのです。このように他社の動向を踏まえながら検討を行うことは大切です。
その他企業が取り組む採用戦略の工夫
- デジタルマーケティングの活用
採用広報としてSNSや動画コンテンツを活用する企業が増えています。特にInstagramやYouTubeを使った「職場の一日」紹介動画などは、求職者が企業文化を知る良い機会となっています。 - インターンシップの拡充
学生時代から実務経験を積めるインターンシップの導入は、優秀な人材の早期確保につながります。 - リファラル採用の推進
社員の紹介による採用手法で、信頼性の高い人材を獲得する動きも活発化しています。
まとめ
売り手市場の中で人材獲得の難易度は高まっており、企業は魅力的な条件提供や職場環境の整備を進めています。これからの採用活動では、単なる求人情報の発信ではなく、企業のビジョンや文化、働き方の魅力をいかに伝えるかが重要なポイントとなるでしょう。さらに、学生に対して早期接触を行い、信頼関係を構築する取り組みが今後ますます求められることが予想されます。
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