ジョブディスクリプションとは?導入企業の事例からみるメリットと効果

人事戦略・制度

市場競争が激化し、働き方が多様化する今日に、「成果」と「役割」にフォーカスした人事制度が求められています。現在注目されているのが「ジョブディスクリプション(Job Description)」です。

これまでの“メンバーシップ型”の雇用では、「人」に仕事が紐づく文化が主流でしたが、ジョブディスクリプションは「仕事」に「人」を割り当てる“ジョブ型”の考え方に基づいています。

私の会社でもジョブディスクリプション制を導入しており、積極的な人材登用や柔軟な処遇コントロールが実現できるようになってきています。

この記事では、ジョブディスクリプションの基本的な概念や、実際に導入している企業の事例について取り上げつつ、導入によるメリットや課題について記載していきます。

ジョブディスクリプションとは?

ジョブディスクリプションとは、職務(ポジション)単位で、求められる役割・目標・業務内容・必要なスキルや経験・資格等を定義した文書のことを指します。

たとえば、法人営業のマネージャーであれば、

  • 主な業務:営業戦略の立案、チームの売上目標達成
  • 管理範囲:営業部門5名のマネジメント
  • 必要スキル:<必須>BtoB営業経験5年以上、<あると良い>MBA経験
  • 成果指標:年度販売目標達成度、ソリューション導入顧客のサービス満足度

といった項目を記載します。こうした情報を全ポジション分用意することで、組織やポジションごとの役割分担を明確にし、評価・育成・報酬に納得度合いや一貫性を持たせることが可能になります。

導入企業の実例

● 富士通:ポスティング制度と合わせたキャリア自律・適所適材の推進

富士通では、2020年に管理職層からジョブ型制度を導入し、2022年には一般社員にも展開しました。職務ごとにジョブディスクリプションを整備し、それをベースに人事評価・報酬制度を構築しています。

富士通はジョブディスクリプションの導入と併せて、社員が自ら当該ポジションに手を挙げる「ポスティング制」を導入しました。それにより、上司主導で次期幹部社員として30代後半~40代前半の社員が多く選ばれてきた従来の運用から、20代や30代前半の社員、加えて50代でも登用のチャンスが生まれているとし、積極的なチャレンジ文化の醸成につながっているようです。

ジョブディスクリプションがあることで、自身のスキルが活かせるのか、やりたいことと業務内容が合致しているのか等について確認しながら応募することができます。

社員の自律的なキャリア形成を推進するとともに、会社としても適所適材による事業貢献の期待ができるようになっています。

● 日立製作所:専門性と役割を明確化

日立製作所は、2021年に管理職を対象としてJDの導入を開始し、2022年7月からは一般社員にも対象を拡大しました。​具体的には、全職種および階層別に約450種類のJDを作成し、各ポジションごとに求められる仕事内容や責任、必要なスキルや経験を明確化しています。

日立製作所では、2008年度のリーマンショックにより戦後最大の赤字に陥ったことをきっかけに、ものづくり中心の事業戦略からグローバル・社会イノベーション事業への転換を進めていました。ジョブディスクリプションの導入もその事業変革を実現するための、一つの人事戦略です。

日立製作所においても、グループ公募制度を導入しており、自らの意思によって当該ポジションへのチャレンジができるようになっています。

本取組を通じて、従業員サーベイの結果によると、自律的キャリア形成の行動変容ポイントが向上しており、社員のキャリアオーナーシップを着実に進めていることが伺えます。

ジョブディスクリプション導入のメリット

1. 役割と期待成果の明確化

ジョブディスクリプションにより、何を達成すべきかが明文化され、社員は自身に求められるゴールを的確に捉え主体的に業務に取り組めるようになります。上長目線でも、当該ジョブディスクリプションで定められた指標をどれだけ達成できたかを評価する仕組みに変わるため、評価に主観が介在する可能性やストレスを減らすことができるため、公平な評価を可能としています。

2. 業務ミスマッチの防止とエンゲージメント向上

職務要件が事前に定められ、社員に公開されていることで、配置後の業務ミスマッチリスクを減少させることが期待できます。加えて、社員は自身のスキルや専門性をどのように成長させていくべきかを我が事化して捉えることができるようになり、結果としてエンゲージメントの向上や、離職率の低下にもつながります。

3. 評価や処遇に対する公平性・透明性の推進

ジョブディスクリプションで定めた成果指標に基づいて評価を行うとともに、そのジョブディスクリプションの重みに基づき報酬を紐づけることで、社員目線での納得度向上につながります。あるいは、同一職務・同一等級とすることで、入社年次や業務経験に関わらず報酬も同一となるため、公平性が担保されます。

導入にあたっての課題

一方で、すべてに対して利点がある人事制度はなく、ジョブディスクリプション制においても当然課題はあります。

  • 運用の煩雑さ:ジョブディスクリプションを導入する際にポジションの情報を整備しても、業務内容や組織体制が変わるたびに最新化が必要になります。その際、各組織でのメンテナンスを許容することで、ジョブディスクリプションの透明性や具体性が失われることが無いよう、更新の具体的な業務フローや権限を事前に検討しておく必要があります。
  • 信頼性と不信感は紙一重:ジョブディスクリプションで定義された業務内容と、実態職場で求められる業務内容に乖離すると、ジョブディスクリプション自体が信頼性のない制度となってしまいます。定期的に実態を客観的に捉える第三者的な観点が必要となります。
  • 柔軟性の確保:職務を具体で定義しすぎると「これは自身の仕事ではない」といった硬直化が起きるリスクも内在しています。一定の裁量やチーム内の調整余地を残す工夫が求められます。

まとめ:ジョブディスクリプションは“働き方”を変える第一歩

ジョブディスクリプションは単なる「職務の定義書」ではなく、組織と社員の関係性を再構築するための有効な手段です。適切に設計・運用されれば、社員のキャリアオーナーシップが推進され、会社としても人材配置や評価の最適化が推進されます。

一方で、導入には相当の検討・実装時間を要しますし、導入後もメンテナンス稼働がかかるのは事実です。制度を一過性のものにせず、組織文化と結びつけながら地道に運用していく姿勢が求められます。

今後、ジョブ型への移行を検討している企業にとって、ジョブディスクリプションは避けては通れないテーマのひとつと言えるでしょう。

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