人事一年目の壁。“人を見る目”をどう養うか?

人事運用(オペレーション)

人事部門に異動したばかりの人が最初に直面する壁——それは、「人を見る目をどう養うか」という課題です。人事は社員と接する機会が特に立場です。またキャリアオーナーシップが叫ばれる中で、社員と面談をする機会も増えています。

そのため、「人物像としてマネジメントを任せて問題ないか」「このポジションに合っているのか?」「退職等のリスクはないか」など、人を見極める力が問われる場面は少なくありません。経験が浅いうちは、判断の根拠を持てずに「なんとなく良さそう」「印象がいいから大丈夫だろう」といった感覚で評価してしまいがちです。しかし、それでは人事として信頼される存在にはなれません。もっといえば会社として目指すべき適所適材を実現できている状態とは言えないことでしょう。

この記事では、人事が社員と向き合う場面の例を紹介しつつ、感覚だけで人を見ることのリスク、人を見る目を養うための具体的な方法について解説していきます。

人事が社員と面談する機会とは?

人事が社員と面談する機会は多岐に渡ります。特に人事は社員の会社人生に大きく影響を与えるイベントについて所掌しているため、その面談がもたらす影響は大きいということを念頭に置きましょう。

1. 昇格・昇進面談

昇格候補者に対し、昇格の妥当性を判断するために行う面談です。昇格候補者に対して、人物像や業務上の成果を基に、事業へのコミット性や協調性等の人間力を見極めます。また現時点での成長度合いだけでなく、過去からの評価の連続性や、リーダーシップや価値観、周囲への影響力なども判断材料となります。ここでの判断が今後の組織運営に大きく影響することは言うまでもありません。また昇格結果に納得できないことを理由に退職する社員もいるのが事実で、それだけ社員に大きな影響を及ぼしていることを忘れてはいけません。

昇格判断はどのような観点で実施すべきかのか等については以下で具体的にまとめていますので、興味があればあわせてご一読いただけますと幸いです。

2. 異動前後のフォロー面談

部門異動や配置転換の前後に面談を行うケースも多いです。特に社員が異動に対してどのような価値観を持ち、どのようなキャリア像を描き、具体的に次のステップではどの部署でどのような業務に就くことを希望しているのかを把握することが目的です。本面談においては、本人の現業での適応状況や今後の目標を確認します。ミスマッチを防ぐためにも、的確な観察力と質問力が必要となります。

また社員が望んでいない職場に異動させるケースも発生します。すべての社員の希望通りに配置を行うことは現実的に困難であるためです。そのため、異動後に「私はこの職場を希望していなかった」という理由でモチベーションが大きく低下する社員が一定数発生するリスクがあります。そのため社員が志向する業務の背景にある、目指す人物像や高めたいスキルに着目し、社員本人の納得度を面談の質疑を通じて高めることが求められます。

3. 退職リスクのある社員との面談/退職面談

退職を考える社員について、上長や組織人事からエスカレがあり、社員本人に対しキャリアの棚卸を行い、場合によっては取りうる手段を講じることを前提に、つなぎ止めを行うための面談を行う場合もあります。あるいは退職を既に決意した社員に対し、退職理由を正しく把握するために面談を行うケースもあります。

いずれにせよ退職というセンシティブかつ出口に対する面談であるため、ここは社員感情に寄り添いながら不平不満を適切に聞き出し、気持ちよく社員に選択をさせるとともに、その背中を押す姿勢が必要となります。ただし、退職時にも社員に対し与える影響は留意しなければなりません。なぜならば近年では退職者による口コミをベースとしたサイトも乱立しており、それら評価を基にして入社先企業を検討する学生や転職検討者も多くいるためです。

4. メンタルヘルスやハラスメント対応面談

メンタル不調やハラスメントの訴えがあった場合の面談は非常に繊細です。表情や言葉の裏にある感情を読み取る力が求められます。社員の心情に過度に寄り添いすぎず、また主観を排除して、事実を確認する力が必要です。

特にメンタルヘルスやハラスメントはその情報の取り扱いには一層の注意が必要です。面談内においても職場の誰まで申告しているのかであったり、誰まで知っているのか、この情報を誰まで共有していいのか等、面談内で社員に確認することが必要な場合もあります。

これらの面談を通して、社員の本音や可能性を引き出せるかどうかは、人事の「人を見る目」にかかっているといっても過言ではありません。それぞれのケースにおいて人事が人を見ることの重要性について理解いただけたのではないでしょうか。


「なんとなく良さそう」で社員を判断するリスク

人事初心者がやりがちなのが、「話しやすいから良さそう」「前向きな印象だから活躍しそう」という感覚論で評価してしまうことです。しかし、これは非常に危険なアプローチです。こういった感覚に依存する判断が与える影響については言うまでもありませんが、簡単に以下で考えてみましょう。

リスク1:本人志向や事業とアンマッチとなる人材配置

感覚での判断は、本来の適性や志向を見誤る可能性が高く、本人の適性や志向と異なる部署に配属してしまうリスクを孕みます。結果として、社員のモチベーション低下や早期離職につながることもあります。もっといえば異動先の職場で活躍できないことで、メンタルヘルスに対する影響もあります。

リスク2:評価の納得感が失われる

昇格や評価に対して、「なぜあの人が合格なのか/良い評価なのか?」という説明ができないと、周囲や本人からの納得感を得られず、不公平感を生む原因になります。またなぜ昇格が妥当と判断したのかを言語化できないことは、言い換えれば昇格後に本人に対し動機づけを適切にできないこととも言えます。つまり社員のエンゲージメントや信頼関係を損なう要因になります。

※エンゲージメントという言葉を初めて耳にする方は、以下もあわせてご確認いただけると有意義になると思います。

リスク3:人事に対する信頼失墜

人を見る力がないと見なされれば、人事そのものへの信頼が揺らぎます。社員や各組織の人事に対する評価が低くなれば、昇格も人事異動ももはや人事が主導する意義がなくなります。もっといえば社員のエンゲージメント低下に大きな影響を与えることから、経営層の人事に対する期待感も薄れることでしょう。

このように、「なんとなく」という感覚での曖昧な判断は、組織全体に悪影響を及ぼすのです。

人を見る目を養うには?ー実践的な訓練方法ー

それでは、人事として「人を見る目」をどう養っていけば良いのでしょうか。以下に有効な方法を紹介します。

1. 質問力を高める

人の本音や価値観を引き出すには、的確な質問が必要です。「なぜそう思うのか?」「どう感じたのか?」など、掘り下げる質問を意識することで、相手の思考パターンや行動特性が見えてきます。このときに大切なのは、質問をすること自体を目的にしない、ということです。社員本人の行動や取組の裏にある価値観や本質的な考え方に触れようと思うことで、自然と質疑が続くものです。この人はどういう思いをもって仕事に取り組んでいるんだろう、というスタンスで深堀することが有意義です。

2. フィードバックの積み重ね

面談で得た印象と、実際のパフォーマンスや上司からのフィードバックを突き合わせることで、自分の観察が正しかったかどうかを検証できます。この振り返りが「見る目」の精度を高めるカギです。面談が得意な社員は一定います。ただしその人たちが業務で活躍しているとは限らないものです。自身の評価は職場の評価と一致しているのか、そういった観点でギャップを把握し、そのギャップが生まれた理由について考えていくことが重要です。

3. 多面的な情報を集める

本人の話だけでなく、同僚や上司からの評価、過去の成果、行動記録など、多面的な情報から総合的に判断する癖をつけましょう。バイアスを減らすことにもつながります。面談は主観が介在しがちです。理論的に説明できる人や、交流館が高い人が高い評価を得がちです。そのため様々な情報を収集し、自らの面談評価にバイアスが発生していないかを確認することも有効でしょう。

4. キャリアコンサルタント資格の活用

人を深く理解するための体系的な学習を行いたいなら、「国家資格キャリアコンサルタント」の取得を検討するのも一つの手です。この資格では、傾聴・質問・目標設定支援など、面談で求められる技術を体系的に学ぶことが可能です。また、キャリア理論や心理学的視点も取り入れながら、人を多面的に理解する訓練ができるため、人事としての基礎力向上にもつながります。

また会社によっては、社員と面談を行う人事については、キャリアコンサルタントの資格を必須としている場合もあります。私の会社でも、社員の能力開発を目的としたキャリア面談を行う社員は、全員キャリアコンサルタント資格を保有しています。場合によっては本資格の取得を検討することも効果的かもしれません。

まとめ:人事としての“目”は訓練で磨き続ける

「人を見る目」は、先天的な才能ではありません。日々の面談、観察、検証、学習の積み重ねによって確実に磨かれていくスキルです。

人事一年目だからこそ、「感覚」ではなく「観察」と「対話」による確かな判断を意識しましょう。その姿勢は、社員との信頼関係構築、正確な配置や評価、そして何より、自分自身が人事として自信を持つことにもつながっていきます。

“人を見る力”を鍛えることは、人事のスタートライン。今日からその一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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