人事一年目の壁 “人を見る目”をどう養うか? ~感覚で判断するリスクと見極め力を高める実践方法~

人事運用(オペレーション)

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人を見る目は、人事に対する信頼感・不信感に直結する

人事部門に異動したばかりの人が最初に直面する壁——それは、「人を見る目をどう養うか」という課題です。人事は社員と接する機会が特に立場です。またキャリアオーナーシップが叫ばれる中で、社員と面談をする機会も増えています。

そのため、「人物像としてマネジメントを任せて問題ないか」「このポジションに合っているのか?」「退職等のリスクはないか」など、人を見極める力が問われる場面は少なくありません。経験が浅いうちは、判断の根拠を持てずに「なんとなく良さそう」「印象がいいから大丈夫だろう」といった感覚で評価してしまいがちです。しかし、それでは人事として信頼される存在にはなれません。もっといえば会社の弱体化に繋がります

この記事では、人事が社員と向き合う場を整理しつつ、感覚で人を見ることのリスクや、人を見る目を養うための具体的な方法について解説していきます。

人事が社員と面談する機会

人事が社員と面談する機会は多岐に渡ります。特に人事は社員の会社人生に大きく影響を与えるイベントについて所掌しているため、その面談がもたらす影響は大きいということを念頭に置きましょう。

昇格・昇進面談

昇格候補者に対し、昇格の妥当性を判断するために行う面談です。昇格候補者に対して、人物像や業務上の成果を基に、事業へのコミット性や協調性等の人間力を見極めます。また現時点での成長度合いだけでなく、過去からの評価の連続性や、リーダーシップや価値観、周囲への影響力なども判断材料となります。ここでの判断が今後の組織運営に大きく影響することは言うまでもありません。また昇格結果に納得できないことを理由に退職する社員もいるのが事実で、それだけ社員に大きな影響を及ぼしていることを忘れてはいけません。

私もこれまで人事をしている中で、後述する退職面談において、「あのとき自分は成果も出している中で昇格できなかったのに、同じ部の○○は自分より成果を出せていないにも関わらず昇格したことが許せなかった。この会社にいても正当に評価されないと思うので退職したい」という旨の退職理由を何度か目にしてきました。

それだけ昇格が社員に与える影響は大きく、人事としては誰もが納得できる観点で自信をもって、昇格OK/NGを判断できなければなりません。

昇格判断はどのような観点で実施すべきかのか等については以下で具体的にまとめていますので、興味があればあわせてご一読いただけますと幸いです。

異動希望をヒアリングするための面談

いわゆる人事異動を検討するにあたって、社員の異動希望を確認するための面談を行うケースもあります。社員が異動に対してどのような価値観を持ち、どのようなキャリア像を描き、具体的に次のステップではどの部署でどのような業務に就くことを希望しているのかを把握することが目的です。

異動にあたって前提となるのは、すべての社員を希望通りに異動させることは困難である、ということを忘れてはいけません。社員が望んでいない部署に異動させることで「私はこの職場を希望していなかった」とモチベーションが大きく低下するリスクはイメージに容易いのではないでしょうか。

どこまでいっても人気な部署や業務に希望は偏ります。あるいは社員が希望していても、その社員の実力や適性を踏まえると、その部署に異動させるべきではない、というケースもあります。

そのため社員の希望と異なる異動も一定数発生することを前提にしたときに、異動面談では、社員がどこに行きたいか、ではなく、どのような人物になりたいかや、どのようなスキルを高めたいか、を重視してヒアリングすることが重要です。キャリア形成という観点では、異動を手段として捉え、本人に対しても何を期待しそこに配置したのかを説明できなければなりません。

そのため社員が志向する業務の背景にある、目指す人物像や高めたいスキルに着目し、社員本人の納得度を面談の質疑を通じて高めることが求められます。

退職リスクのある社員との面談/退職面談

退職を考えている社員に対して、つなぎ止めを行うために、あるいは退職意思が固い場合には退職理由を正しく把握するために面談を行うケースもあります。

退職を考える社員は多くの場合、身近な上長にまず相談や報告をします。本人からの申告を受けた上長は自身の組織の人事担当に本内容をエスカレします。そのため、人事が本人と面談をする際には、すでに上長や組織の人事と面談を実施している場合が多く、退職の意思が固まっている割合の方が多い印象です。

退職を迷っている方であれば、つなぎ止めができることもあるでしょう。ただし退職を決めている社員に対しては、社員感情に寄り添いながら不平不満を適切に聞き出し、気持ちよく社員にの背中を押す姿勢が必要となります。

なぜならば、近年では退職者による口コミをベースとしたサイトも乱立しており、それら評価を基にして入社先企業を検討する学生や転職検討者も多くいるためです。不平不満ばかりが記載されている会社に誰が転職したいと思うでしょう。

会社に対し抱くネガティブなところを適切に聞きながら、会社の良かったところも一緒に振り返ることが大切です。そのうえで、次の会社のキャリアも応援している旨をしっかり伝えることも重要です。

退職面談のポイントは別記事でもまとめていますので、併せてご確認ください。

メンタルヘルスやハラスメント対応面談

メンタル不調やハラスメントの訴えがあった場合の面談は非常に繊細です。

本人から語られる話を聞くと、面談官の心情も本人に寄り添ってしまいがちですが、大切なのは主観を排除し事実を確認する力です。

そのためには本人が語る話について、いつ誰から誰に対し、具体的にどのような言動があったか、それに対して本人はどう思ったか、というように事実と主観を分けて質問していくことが重要です。

またメンタルヘルスやハラスメントはその情報の取り扱いには一層の注意が必要です。面談内においても職場の誰まで申告しているのか、誰まで知っているのか、あるいは人事としてこの情報を誰まで共有していいのか等、面談内で社員に確認することも必要です。

これらの面談を通して、社員の本音や可能性を引き出せるかどうかは、人事の「人を見る目」にかかっているといっても過言ではありません。それぞれのケースにおいて人事が人を見ることの重要性について理解いただけたのではないでしょうか。


「なんとなく良さそう」で社員を判断するリスク

人事初心者がやりがちなのが、「成果も出しているし、話し方も頼もしいからきっと活躍しているんだろう」「前向きに取り組む姿勢があるから、次の職場でも頑張れるだろう」という感覚論で評価してしまうことです。しかし、これは非常に危険なアプローチです。こういった感覚に依存する判断が与える影響については言うまでもありませんが、簡単に以下で考えてみましょう。

リスク1:本人志向や事業とアンマッチとなる人材配置

感覚での判断は、本来の適性や志向を見誤る可能性が高く、本人の適性や志向と異なる部署に配属してしまうリスクを孕みます。結果として、社員のモチベーション低下や早期離職につながることもあります。もっといえば異動先の職場で活躍できないことで、メンタルヘルスに対する影響もあります。

リスク2:評価の納得感が失われる

昇格や評価に対して、「なぜあの人が合格なのか/良い評価なのか?」という説明ができないと、周囲や本人からの納得感を得られず、不公平感を生む原因になります。またなぜ昇格が妥当と判断したのかを言語化できないことは、言い換えれば昇格後に本人に対し動機づけを適切にできないこととも言えます。つまり社員のエンゲージメントや信頼関係を損なう要因になります。

※エンゲージメントという言葉を初めて耳にする方は、以下もあわせてご確認いただけると有意義になると思います。

リスク3:人事に対する信頼失墜

人を見る力がないと見なされれば、人事そのものへの信頼が揺らぎます。社員や各組織の人事に対する評価が低くなれば、昇格も人事異動ももはや人事が主導する意義がなくなります。もっといえば社員のエンゲージメント低下に大きな影響を与えることから、経営層の人事に対する期待感も薄れることでしょう。

このように、「なんとなく」という感覚での曖昧な判断は、組織全体に悪影響を及ぼすのです。

人を見る目を養うには?ー実践的な訓練方法ー

では人事として「人を見る目」をどう養っていけば良いのでしょうか。以下に有効な方法を紹介します。

質問力を高める

人の本音や価値観を引き出すには、的確な質問が必要です。「なぜそう思うのか?」「どう感じたのか?」など、掘り下げる質問を意識することで、相手の思考パターンや行動特性が見えてきます。このときに大切なのは、質問をすること自体を目的にしない、ということです。

社員本人の行動や取組の裏にある価値観や本質的な考え方に触れようと思うことで、自然と質疑が続くものです。この人はどういう思いをもって仕事に取り組んでいるんだろう、というスタンスで深堀することが有意義です。

例えば現在の業務をヒアリングするシーンがあった際に、「現在の組織の目標値と個人としての目標値は? それに対する進捗は?」という質問をすると、まずは自身の進捗を把握できているかがわかります。そのうえで「好調の理由はどこにあるのか、不調だとするとリカバリーはどう考えているのか」「それを取り組もうとしたときに、もっとこういうやり方もある中で、なぜそのやり方が有効だと考えているのか」をういった質問をしていくことで、本人の戦略性や志向に触れることができます。

また、質問力を高めるために最も効果的なのは、自身が面談官の際の模様を録画し、自分自身で振り返って確認してみることです。

冷静になって自分の受け答えをみると、ここでなんでこれ聞いているんだろう、もっとこういう質問をした方がよかったな、というのが実感としてわかるはずです。

フィードバックの積み重ね

また自身が面談で得た社員の印象について、その社員の上司が持つ印象も聞きながら、その相違を突き合わせることも効果的です。

面談はどこまでいっても時間が限られています。一方で上長は長いスパンで社員を見ているからこそ、よりリアルな印象を持っているはずです。そのため双方をすり合わせることで、自分の観察が正しかったかどうかを検証できます。

この振り返りが「見る目」の精度を高めるカギです。面談が得意な社員も一定います。そういった社員は面談においてエピソードを”盛って”話すこともあります。その社員が本当に業務で活躍しているとは限らないものです。面談でその見極めが困難であった場合には、自身の評価と職場の評価が一致しているのか、ギャップがあるのかを把握し、そのギャップが生まれた理由について考えていくことが重要です。

多面的な情報を集める

面談は主観が介在しがちです。そのため何かを判断する際には、面談の評価だけでなく、同僚や上司からの評価、過去の成果、行動記録など、多面的な情報から総合的に判断する癖をつけましょう。これは社員に対するバイアスを減らすことにもつながります。

面談では、理論的に説明できる人や、交流感が高い人がどうしても高い評価を得がちです。一方で現場ではトラブルが発生した際に頼られている社員や、他の社員がやらないことを積極的に引き受け頑張っている社員がいます。そういったヒューマンスキルが高い社員は、得てして面談が苦手というシーンが多いものです。

そのため様々な情報を収集し、自らの面談評価にバイアスが発生していないかを確認することも有効でしょう。

キャリアコンサルタント資格の活用

面談において必要となる質問力を体系的に高めていくために「キャリアコンサルタント資格」を学ぶことも有意義です。キャリアコンサルタントは国家資格であり、傾聴・質問・目標設定支援など、面談で求められる技術を体系的に学ぶことが可能です。また、キャリア理論や心理学的視点も取り入れながら、人を多面的に理解する訓練ができるため、人事としての基礎力向上にもつながります。

また会社によっては、社員と面談を行う人事については、キャリアコンサルタントの資格を必須としている場合もあります。私の会社でも、社員の能力開発を目的としたキャリア面談を行う社員は、全員キャリアコンサルタント資格を保有しています。場合によっては本資格の取得を検討することも効果的かもしれません。

キャリアコンサルタント資格の取得にあたっては、人事経験年数によって、カリキュラム受講が必要となります。本カリキュラムを提供している会社は複数あれど、受講者の満足度や受講者数などの実績に基づき会社を選定することをお勧めします。関心がある方は、資料請求から始めることをお勧めします。

まとめ:人事としての“目”は訓練で磨き続ける

「人を見る目」は、先天的な才能ではありません。日々の面談、観察、検証、学習の積み重ねによって確実に磨かれていくスキルです。

「感覚」ではなく「観察」と「対話」による確かな判断を意識しましょう。その姿勢は、社員との信頼関係構築、正確な配置や評価、そして何より、自分自身が人事として自信を持つことにもつながっていきます。

“人を見る力”を鍛えることは、人事のスタートライン。今日からその一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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