ゼロからわかる人事の仕事|はじめて人事担当者になったら理解しておくべきこと。

人事運用(オペレーション)

これから人事を担当することになった方や、人事部に配属されたばかりの方にとって、人事が具体的にどのような業務を担っているのか、想像しにくい部分が多々あることでしょう。

「人を採用するだけでしょ?」

「社員の異動を決めたり、育成施策を考えたりするんですよね?」

「社員と面談する機会が多い職種」

などなど人によって人事に対して抱くイメージは様々です。

いずれも正解ではありますが、実際には採用、育成、人事制度設計、労務対応、組織開発など、その業務範囲は非常に広く、かつ会社や事業の根幹を支える重要な役割を担っています。

この記事では、初めて人事を担当する方が知っておくべき人事業務の全体像や、心構え、そして人事として成長していくために必要なスキルについて解説します。また、初めて人事になる方が抱きやすい不安と、その対処法についても触れていきます。

人事の主な業務内容

人事の仕事は、大きく以下のような領域から構成されます。

会社人事(例えば会社の総務人事部)なのか組織人事(事業部における人事)なのかによって、あるいは会社や組織の規模や、人事におけるチーム編成によって、1名の人事担当が担う範囲は異なります。

1. 採用業務

新卒採用・中途採用を通じて、会社に必要な人材を確保する業務です。

求人票の作成、媒体選定、企業説明会の運営、面接選考、内定フォローまで、幅広い活動が含まれます。

新卒採用は多くの場合、年に1度の採用で実施するため、1年を通じて何月にどのような対応をしているかは過去から言語化されているものがあるはずです。つまりはルーティーン的に毎年度同じ営みを実施するため、大きな年間のスケジュールやプロセスで業務を理解することが有意義です。

一方で中途採用は、年に1度ではなく通年的にポストを開き、募集があった場合に選考を実施する企業が多いです。ポストを募集しても応募者がいるとは限らないため、年に1度の採用では企業にとって機会損失になるためです。

中途採用はポストありきでの採用になるため、各事業部とのやりとりも多く発生するという特徴があります。

2. 育成・人材開発

社員の能力開発やスキル・専門性向上のための施策を計画し・実行する役割です。

入社して間もない社員に対しては、主に社会人としての基礎的なビジネスマナーの習得や、社会人基礎力の習得に向けたベース系の育成が中心となります。

一方で入社5年後や10年後の社員に対する人材開発や、主任・係長・課長・部長といった階層別に求められる資質習得を目的とした階層別研修など、一言で育成といってもその狙いによって様々なものがあります。

育成についても、おそらくは毎年度実施しているルーティーン系なイベントやスケジュールがあるはずです。新入社員を迎え入れるための全体研修やOJT施策、その後の職場フィットを推進するための上長向け研修・・・など、まずはベースとなる業務形態を理解するようにしましょう。

一方で変化する市場においては、会社の事業動向を踏まえ、社員の到達度を常に見直し定義しなおす必要があります。毎年度同じ育成施策を実施することが目的ではないことを念頭に置いておくとよいでしょう。

3. 人事制度設計・運用

意外と社員から見えていなく、忘れられがちな業務が人事制度系業務です。

一般的にはすべての会社に社員就業規則があり、働き方や給与体系を規定しているほか、評価制度や昇格ルールに至るまであらゆる人事規定が用意されています。

会社として事業運営を支える各種制度を主管し、市場の変化に合わせて内容見直しを検討し、そのリスクや懸念を精査しながら社員の成長を支援することが最たる業務です。

例えば近年では、売り手市場といわれるように、企業が必要な人材や人員数を獲得することが困難になっており、その結果として一部の企業では初任給の引き上げを実行しています。これを実現するためには給与規定の見直しが必要となり、あるいはそれを実施した場合の総人件費が与える経営インパクトの検討等を担うのです。

制度の運用を通じて、公平で納得感のある評価やキャリア支援が可能になります。近年では人的資本経営の観点からも注目される分野です。

4. 労務管理

労務管理とは、社員が安心して働ける環境を整えるために、労働時間、勤怠、給与、社会保険、安全衛生等のルールを整備し・運用する業務です。

具体的には、社員一人ひとりの勤怠データの管理、残業時間の把握・必要な手続き、有給休暇等の休暇取得状況の確認や推進、給与計算、社会保険手続き、労働契約の管理などが含まれます。

社員が日ごろ健康的に業務に従事できるよう、その仕組みや運用を担っている部署であり、社員が困ったときに真っ先に相談されるであろう機能です。社員に最も近く、雑多な相談も含め多岐に渡る質問が来ることが特徴です。

一方で、社員との対応や各種運用にあたっては、労働基準法をはじめとする各種労働関連法令を理解し、遵守することも必要となります。

万が一トラブルが発生した場合には、適切な対応を取る必要があります。正確性が求められる一方で、社員の働きやすさに直結する非常に重要な業務領域です。

5. 人事運用、人材マネジメント

「昇格」や「異動」など社員の会社人生を左右するイベントを所掌する機能もあります。

社員の志向や希望の把握に努め、CDP像にあわせて配置計画を描いたり、昇格選考を設計し面談等のプロセスを担いながら誰を昇格させるかを判断するなど、一定の権限を有するのがこの機能です。

加えて一人ひとりの社員のあらゆる情報を適切に把握・管理するために、人材データベース活用し、必要なデータ蓄積を担うこともあるでしょう。

組織の活性化や風土改革、リーダーシップ開発など、企業文化の形成に関わる業務です。人事運用は、経営と現場の橋渡し役として、組織全体のパフォーマンスを高める施策を打ち出すことが期待されます。

初めて人事になる人が抱く不安と、その対処法

■ “人の人生を左右してしまう”ことへのプレッシャーやストレス

人事は、評価や配置、採用などで個人のキャリアに大きく関わる立場にあります。その責任の重さに戸惑ったり、自分がその職務を担えるのか不安になったりすることもあるでしょう。

その際、ぜひ心にとめておいてほしいのが、「自分一人で判断しない」ということです。

判断を伴うような検討を行う際には、必ず客観的なデータを用意し、そこから示唆されることを考え、上司や職場の見解とすり合わせながら方針を立てていく、そういったことを覚えておけば、不必要な重圧からも解放され、またあなたの存在価値が発揮されることと思います。

また「正解」を求めすぎず、透明性と納得感のあるプロセスを意識することで、不安を軽減できます。

■ 法律や制度への知識不足

労務や制度運用には、法的なルールが関わる場面も多く、判断誤りが許されないプレッシャーを感じることもあります。

まずは極力主観を排除し、事実ベースを踏まえたうえで「何がリスクか」「論点はなにか」を抑えるようにしましょう。そのうえで「前例や類似事例はないか」「誰に相談すべきか」を押さえることが重要です。

結論を出す前に、改めて懸念やリスクがないかを冷静に考える習慣が大切です。

他社の事例や見解等を調べることができる、会員制のコミュニティサイトも存在しています。そういったものに会社として登録し、日ごろから情報を集めることも視野の拡大には非常に有意義です。

■ “現場との板挟み”状態

人事とは経営と現場の間に立つ橋渡し的なポジションです。「現場からの要望」と「経営方針」が一致せず、板挟みになることもあります。

まずは双方の背景や目的をしっかりヒアリングし、共通項を見つける努力をしましょう。中立的に対話を促すファシリテーターとしてのスキルが鍵になります。

一方で会社や事業の強化のためには、社員に対する旗振りを大きく変えることも必要で、その前面に立つのも人事です。社員に対し、これから変革させようとしていること、挑戦しようとしていることが、10年後の社員のためになると自信をもって言えるのかに拘りましょう。

人事としての心構え

人事の仕事は、ただ業務をこなすだけでなく、常に「人」と向き合うことが求められます。初めての方にとっては、次のような心構えが大切です。

■ 社員一人ひとりにリスペクトを持つ

人事は社員の人生やキャリアに関わる仕事です。面談等の機会も多々あります。決しておごったり、偉ぶったりすることはあってはいけません。一人ひとりの価値観や状況を尊重し、相手の立場に立って考える姿勢が信頼につながります。

■ 公正・中立の視点を意識する

好き嫌いや感情はもちろん、主観は極力排除しましょう。常に公平・中立的な立場で物事を検討し、判断することが重要です。特に評価や昇格など社員モチベーションに直結する判断を求められる場合には、その判断の基になる基準の透明性や公正性が問われます。

■ 経営視点を忘れない

人事は経営の一翼を担う存在です。「この施策が会社の成長にどうつながるか」という視点を持つことで、戦略的な判断ができるようになります。戦略人事という言葉が近年流行するように、毎年度おなじことを繰り返し実行するだけの人事ではなく、会社や事業強化に資する打ち手を自ら考え、実行する人材になりましょう。

人事として成長するために必要なスキル

人事業務を深め、より価値ある存在になるためには、以下のようなスキルを意識的に身につけていくことが大切です。

■ コミュニケーション力

社員との面談、事業部との各種調整、経営層に対する方向性の提示など、あらゆる場面で必要になるスキルです。聴く力・伝える力の両方を磨くことが、人事としての信頼を高めます。

■ ロジカルシンキング

人事施策の設計や課題分析を行う際には、論理的な思考力が求められます。感情や主観に流されず、データや他社事例などの客観的事実に基づいた判断ができるようになると、業務の質が上がり、周囲の信頼獲得につながります。

■ 法務・労務の基礎知識

労働基準法、育児介護休業法、パワハラ防止法など、最低限の労働関連法規への理解は必須です。トラブルの予防や対応の精度にも直結します。

■ データ分析力

人事データ(事業部ごとの人員構成、評価結果、離職率、一人ひとりの適性など)をもとに、課題を可視化し施策に反映するスキルは今後ますます重要になります。ExcelやBIツールを活用できると強みになります。

■ 最新トレンドへのアンテナ

人的資本経営、ジョブ型雇用、副業解禁、リスキリングなど、人事領域は大きく変化しています。常に情報をキャッチし、自社に活かせる視点を持つことが、成長への鍵になります。

最後に

人事の仕事は「人」に関わるからこそ、やりがいも大きく、同時に責任も伴います。

初めは分からないことも多いと思いますが、日々の業務を通じて多くの気づきと学びが得られるはずです。ときに迷い、答えが出ず、やりがいや成果に悩むことも多いはずです。むしろそれは人事として現状に流されず、自分なりに考え行動しようとしている結果生まれるものであると考えています。

社員や組織の成長には、人事は不可欠です。おそらく目に見える成果を感じ、やりがいを感じるためには、数年単位でかかるかもしれませんが、逆にいうとそれだけ高く険しい会社・事業目標を経営層とおもに担うのが人事だと私は考えています。

ぜひ本記事が、人事をはじめて経験する方にとって有意義なものになりますように。

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