市場変化が激しい今日において、企業の競争力に直結するのは「社員」です。
社員がいかにユーザの経営課題を抽出し最適な提案ができるか。あるいはどれだけマーケティングを効果的に実施して市場でシェアのとれるサービスを開発できるか、など社員が高い能力を保有することが事業の成果に直結するでしょう。
こうした”社員力”を高めるためには、会社から社員に対し一方的な研修等を実施してもなかなか効果があがりません。社員自ら高めたい能力や身に着けたいスキルに気づき、それを高める仕組みが会社に整備されていることが重要です。
そうした社員自らが能力開発に取り組むためには、キャリアオーナーシップ、つまり自律的にキャリアを形成しようとするマインドが重要です。
こうしたキャリアオーナーシップが求められる今日においては、社員に徹底的に向き合い、社員とともに今後のキャリアビジョンを描きながら、その像に近づくために必要な能力開発計画を描くキャリアコンサルタントを企業内に設置することが効果的です。
社内版キャリアコンサルタントが、事業を成長させる
キャリアコンサルタントというと、多くの方は「社員の悩みを聞いて、解決に向けた助言を担う役割を持った人」をイメージするのではないでしょうか?
そのイメージはもちろん正しいのですが、実は厚生労働省が認定する国家資格であり、職業選択や能力開発、キャリア形成に関する相談・指導を行うプロフェッショナルのことを指します。
一方でそうした単なる相談員にとどまらず、自社や事業が目指すべき方向性を踏まえ、社員のキャリアビジョンに寄り添いながら、個々の社員の育成プランを描くことで計画的に社員を強化していく。そうした戦略的な運用を行うのが”社内版キャリアコンサルタント”の役割です。
近年、社内版キャリアコンサルタントのニーズが高まっている
近年、特に大手企業を中心に、社内でキャリアコンサルタントの導入を推進する企業が増えてきています。その背景には、どのような課題があるのでしょうか?
キャリアの多様化・複雑化
変化する市場において競争力をもつために、多くの企業は人材投資を積極的に実施しています。そのため、社員は高い専門性の獲得に向け自らを成長させ、加えて会社としても実力主義での登用を推進する制度へと変革しています。
そうした環境下において、社員は自らのキャリアを会社に任せるのではなく、自らキャリアを考えその実現に向けて挑戦をするようになっています。
例えば社内での異動施策(公募)に手を挙げる、副業や社内ダブルワークに挑戦する、資格取得や研修を自ら選択し参加する、こうした挑戦によって、従来のこの社員はこの事業の中核人材として成長させていこう、といった会社目線でのキャリア形成ではなく、社員本人が主導するキャリア形成が推進され、キャリアの多様化・複雑化に繋がっています。
そのため社員がキャリアに対して悩んだり迷ったりするケースが増えており、その相談に乗りながら手ほどきできる人材としてキャリアコンサルタントが必要とされてるのです。
人的資本経営への注目
企業が持続的に成長していくためには、事業を支える人材に対する投資こそ重要である、という考え方が広まり、人的資本投資が経営課題になりつつあります。
人的資本経営において、社員のキャリア支援は重点施策の一つと位置づけられます。わかりやすくいえば、「社員のキャリア形成にどれだけ会社として投資しているか」は投資家に対して開示すべき情報であり、これによって企業が評価されるのです。
ただし、キャリアコンサルタントは社員のキャリア形成に直結する施策であれど、設置することが重要なのではありません。どれだけ活用され効果的に運用されているかが大切です。そのため人的資本経営の観点から情報を開示する際には、利用率や利用者数もあわせて開示するケースが多いのです。
人的資本経営については別で詳細にまとめていますので、あわせてご覧ください。
エンゲージメント向上の経営課題に対する対応
また、最もイメージしやすいのは社員エンゲージメントへの貢献でしょう。異動や昇格といったキャリアの節目で、今後このままでいいのか、自分は本当は別の部署に行きたかった、など様々な不安を持つ社員は一定います。
こうした悩み相談は、上長にはしにくいものです。上長や所属組織の先輩など身近な存在ではなく、利害関係のない第三者だからこそ本音で悩みを打ち解けられる場合もあります。
こうした第三者の立ち位置で助言を行う機能として社内版キャリアコンサルタントが必要とされているのです。
現在、社員のエンゲージメントスコアを経営幹部の評価に直結させる企業も増えてきています。社員が健全に業務に取り組めているのかを対外的に示す指標がエンゲージメントスコアです。
こうしたエンゲージメントを維持向上させるためにもキャリアコンサルタントは有効なのです。エンゲージメントについては以下記事でも紹介しています。
社内版キャリアコンサルタントは既に始まっている
これまで、社内版キャリアコンサルタントのニーズが高まっている背景について紹介してきました。以下に該当する企業は、速やかに導入を検討いただけるとよいでしょう。
- 離職率が高く、定着施策に悩んでいる企業
- 社員の年齢層やキャリア志向に多様性がある企業
- リスキリングや社内公募制度などを導入し始めた企業
- ジョブ型人事制度への移行を検討している企業
- 人的資本の情報開示(ISO30414など)に対応したい企業
キャリアコンサルタント導入による期待効果
また、企業内にキャリアコンサルタントを配置・活用することで、以下のような成果が期待されます。
■ 離職率の改善
キャリアの不透明さや不満が離職につながるケースは少なくありません。面談によって社員の不安を早期にキャッチし、支援を行うことで、離職率を抑えることができます。
■ キャリア自律の促進
「何をすればいいか分からない」「自分の強みが分からない」といった社員に対し、自己理解と目標設定のサポートを行うことで、自律的な成長を促します。次はこんな業務に挑戦したい、こういう部署で業務に就きたい、理想とする先輩に近づくためにはこういう経験も積んでおいた方がいい、そういったことを共に考え気づきを与えることが、社員のモチベーションアップにもつながります。
■ マネジメント層の負担軽減
1on1やキャリア支援の重要性は高まる一方で、現場の上司が対応しきれないという課題があります。キャリアコンサルタントが並走することで、マネジャーの負担を軽減しつつ、質の高い支援が可能になります。またキャリアコンサルタントが中立的な立場でコミュニケーションを取ることで、必要に応じてその応対模様を上長に共有し、社員の育成を意識的に対応いただくよう支援することもできます。
■ 人材配置の最適化
社員の適性や希望を把握することで、適材適所の配置を実現しやすくなります。ミスマッチの防止やパフォーマンスの最大化にもつながります。また社員から見えている世界は限定的です。たとえば育成業務を希望して人事部への異動を希望している社員がいたときに、法人営業組織やサービス開発組織のような事業組織にも本来育成を担う担当はあるはずです。こうした世界を示唆することで、社員の視座を広くすることができるのもキャリアコンサルタントの魅力です。
実際の導入事例
社内版キャリアコンサルタントの取組は既に開始しています。ここでは誰もが知っている日本を代表する2社を紹介します。
明治安田生命
社内外のキャリアコンサルタントによる相談窓口を設置し、 いつでも仕事やキャリアについて相談できるよう環境を整備。加えてキャリアコンサルタントをハブとして人事運用、人事制度担当者と連携し、相談者に対してきめ細やかなフォローを実施しています。
出所:https://www.mhlw.go.jp/career-award/pdf/2022/meijiyasuda.pdf(グッドキャリア企業アワード2022資料より)
NTT西日本
自律的なキャリア形成を推進しているNTT西日本では、社員の新たな気づきの発見や悩み事の解決に向けて社内にキャリアコンサルタントを配置しています。キャリアコンサルタントとの面談を希望する社員に対して自己実現に向けた支援をしています。
出所:https://www.ntt-west-recruiting.jp/chuto/career(NTT西日本HP)
キャリアコンサルタント資格の取得にむけて
社内にキャリアコンサルタントを設置することの意義や、あるいはその取組みが既に開始されていることを紹介してきました。
キャリアコンサルタントは人に寄り添う役割であり、一人ひとりの今後の成長を左右する重要な役割です。そのため多くの企業では、キャリアコンサルタントになるためには「キャリアコンサルタント資格」を有することを条件としています。
キャリアコンサルタント資格は国家資格であり、また取得に際してはカリキュラムの受講が必要となります。(一定の基準を満たす方は不要)
このカリキュラムは養成講座と呼ばれることが多く、複数の会社がコースの提供をしています。料金や取得にかかる期間、あるいはオンラインやオフラインの受講形態からご自身の関心に合うものを選択するのがよいでしょう。
また複数の会社が提供しているため、どの会社を選択するのが良いのか迷うことも多いと思います。その場合には、受講者の満足度や受講者数を基に検討することをおすすめします。まずは資料請求からはじめてはいかがでしょうか。

キャリアコンサルタント資格取得のために必要な養成講座を提供している日本マンパワーさんは、受講者満足度が最も高く、受講者数も多いことから参考になると思います。
また積極的に挑戦したい方については、養成講座の比較についてもご確認いただけると役立つと思います。様々なサイトで紹介されている養成講座について、厚生労働省が開示しているデータから真に重視すべきポイントに注目し取り上げています。
最後に
キャリアコンサルタントは、社員一人ひとりの可能性を引き出し、社員エンゲージメント向上に重要な役割を持つほか、その結果として組織の生産性向上に貢献してくれる存在です。今後ますます多様化・複雑化するキャリアに対応していくためにも、社内でのキャリア支援体制の構築は企業成長の鍵となります。
人事部門としては、「誰が担うのか」「どの範囲で支援するのか」「どう活用するのか」といった戦略的な視点で、キャリアコンサルタントの導入を検討することが重要です。社員と組織の未来を見据えた、新しい人事戦略の一歩として、ぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。
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