アルムナイとは何か:退職者を「未来のパートナー」に変える人材戦略 ~導入効果はあるか~

人事運用(オペレーション)

アルムナイとは

「アルムナイ」(Alumni)とは直訳すると卒業生という意味を持ち、企業においては自社を退職した元社員を指す言葉として使われます。人事戦略においてアルムナイという言葉が使われる場合には、企業においては退職者とのネットワークを維持し、再雇用や協業、リファラル(人材紹介)などにつなげる仕組みを意味します。

従来、退職=自社との接点の終了という考え方が一般的でした。一方で転職が当たり前になった今日では、退職者を「未来のパートナー」として位置づけ、継続的にリレーションを維持しようとする動きが増えています。人的資本経営が注目される今、アルムナイ制度は「退職者を資産として活用する」象徴的な取り組みと言えます。

アルムナイの運用

アルムナイが具体的に誰にとってどのような効果をもたらしているのかを確認する前に、まずはアルムナイの運用について理解しておきましょう。運用を理解することで、効用に対する理解も深まるためです。

企業はどのようにアルムナイを運用しているのか

退職した方とリレーションを維持する、というのは簡単なことではありません。もっと言えばどのようにしてアルムナイの母集団を形成しているのでしょうか。

アルムナイの母集団形成

企業目線では、まず母集団を形成し管理していくことが第一も取組となります。そのため社員が退職をする際に、退職面談を通じて転職先企業やその企業での業務内容を適切に把握しておくことが必要です。

たとえば転職先企業でどのようなキャリアを形成していきたいか、10年後の自分の理想像をどう考えるかなど、転職を手段として捉え様々なプランが存在することをしっかり会話することが大切です。その中で選択肢の1つとして、出戻り採用があること、あるいは知人や友人の紹介を依頼しつつ、今後も接点を持たせてほしいことを明確に伝えることが重要です。そのうえで、退職後も(以下のような)情報を発信するためぜひ確認してほしい旨説明し、本人と連絡が取れるメールアドレスを確認するようにしましょう。

ニュースリリースや募集ポスト情報の発信

こうして形成した退職者の母集団に対し、現在会社が強化している事業内容や新たな取組み、あるいはニュースリリースや募集しているポスト情報を配信します。

あくまで転職先で現在別の業務に取り組んでいる方にとって有意義な情報を発信することを心がけることが重要です。そのため「採用強化中!」といった安易なメッセージは控え、退職者が有意義であると捉えてくれるようなテーマで情報を発信することで、心理的には自社と繋がった状態を維持することができます。

アルムナイイベントの開催

またオンライン/オフライン問わず、実際の接点を持つための取組としてイベントを開催する企業も多くあります。多くは、自社および退職者が現在どのような取組を実施しているのかをすり合わせながら、その中で事業として協業できる可能性や、退職者たちの今日における関心等を把握することが目的です。

アルムナイのイベントの呼びかけは上記で説明したメール配信等を通じて実施します。この呼びかけ基づきイベントに参加してくれる方は、その時点で一定程度自社に対しポジティブな思いを持っていたり、あるいはその反対に現在の会社に対する不満や課題意識を持っていることが想定されます。

こうしたイベントでの直接的な接点を通じて、自社のプレゼンスを上げることができれば、再度自社に戻りたいと考える方が出てくる可能性は高くなります。

アルムナイに取り組む企業のメリットとは

では、こうしたアルムナイを対象とした施策運用を継続することで、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。新卒採用や経験者採用とは異なり、”一度自社で業務を経験した方”という性質に着目することで以下効用が期待されます。

カムバック採用(再雇用)

最も象徴的な効果は、再度自社に戻ってきてくれること、 です。

自社を退職し他社に転職した方が、転職先の企業で業務をする中で、労働環境や業務内容に対し一定ギャップを感じることは珍しくありません。一度別の企業で業務経験があるため、そのときの仕事の仕方(例えば、資料はどのように作るか、どのタイミングでエスカレするか、部署をまたぐコミュニケーションに係るお作法等)と現在の企業でのそれとが異なり、一定ストレスを感じながら適用していく必要が出てきます。

そうした経験をする中で、常に本人の中で出てくるのが「前の企業との比較」です。「この仕事は前職でいうあの仕事に相当するんだな」、「前職では○○部がやってくれていた業務も今は自分がやらないといけないのか」など前職の業務経験が常に比較対象としてあがるのです。

こうした中で「前の会社に戻りたい」と思うシーンも一定出てくるのは自然なことと言えます。その際に一度退職した企業に戻ることは相当勇気がいることです。「中途採用に応募したらどう思われるだろう」「自分の意思で退職した人を再度採用してくれるわけがない」そう思うのもまた自然なことでしょう。そこでアルムナイに対し、募集ポスト情報を配信しながら出戻り採用を歓迎するメッセージを発信することでそうした不安を取り除くことができます。

退職した方が再度自社に戻りたいと考えるケースは一定あるはずです。一方でこれまで、退職した方と接点を持つことができていなかったのであれば、こうした層を再度採用することは困難であり貴重な戦力を取りこぼしていた可能性があります。アルムナイとの接点を通じて自社に適した人材を再度雇用することができるのは人事上大きなメリットになります。

即戦力の確保・低い離職率

アルムナイは過去に自社での業務経験があるゆえに、再雇用後の立ち上がりも早いです。どの部署がどのような業務をしているか、システムは何を使っていて、困ったら誰を頼ればいいか、そうした過去の知見は、入社にあたっての自信となります。一般的な中途採用社員はこのあたりの適応に時間を要す一方で、即戦力として活躍が期待できる人材の確保は職場からの期待も大きいのです。

また、こうした社員が再度退職する可能性は低いと言えます。別の会社での業務経験があった上で、何かしらの優先すべき価値観を基に自社に戻ってきていただいていることを考えれば、それを再度手放して退職するのには相当な覚悟が求められるためです。

採用コストの削減、高い費用対効果

あるいは新卒採用や中途採用と比較し高い費用対効果があるのも特徴です。

アルムナイでは自身が再度会社に戻ってくる可能性があるだけではなく、アルムナイの友人や知人を紹介してれるケースも期待されます。実際に知人を紹介してくれた場合、アルムナイに対し紹介料相当の謝礼を払っている企業もあります。

一般的に新卒採用は長い期間をかけて会社説明会やインターン等を通じて、自社に関心を持つ学生を誘因し母集団形成します。あるいは中途採用では、エージェントからの紹介が主な入社希望者との接点になりますが、いずれにせよ相当のコストが発生します。

アルムナイは良くも悪くも退職者自体が母集団となり、その母集団のカムバックもしくは知人紹介等を通じて採用に繋がるため、発生するコストは限定的で高い費用対効果があるのです。

アルムナイに取り組む企業事例

三菱UFJグループ

アルムナイを開始した背景

三菱UFJ銀行は2023年5月にアルムナイネットワークを設立しました。背景には、MUFGが掲げる「人的資本経営」の推進があります。退職者を「失われた人材」ではなく、外部で新たな経験や専門性を積んだ人的資本の蓄積源と捉え、再びグループに還流させることを狙っています。

アルムナイとの接点の作り方

アルムナイとのネットワークを築く基盤として、三菱UFJグループでは株式会社ハッカズークが提供するアルムナイ専門サービス「Official-Alumni.com」を利用しています。三菱UFJGのビジネスや採用に関する情報を発信するとともに、コミュニティやイベント情報を発信しています。登録者は1000名を超え、グループ横断の大規模コミュニティとなっています。

イベントの模様

2025年1月には三菱UFJ信託銀行本店ビルで大規模なアルムナイイベントが開催されました。オンラインとオフラインのハイブリッド形式で実施され、海外からの参加者も含め幅広い層が参加し、開会の挨拶ではCHROがプレゼンするなど、アルムナイに対し会社として注力していることが伺えます。パネルディスカッションやネットワーキングを通じて、現役社員とアルムナイが金融市場やDXの最新動向について意見交換をしています。

参照:Official-Alumni.com イベントレポート 採用だけにとどまらない「アルムナイネットワーク」の価値とは〜三菱UFJ銀行・パーソルキャリアの人事担当者に聞く〜 |オフィシャル・アルムナイ【シェアNo.1】アルムナイ専門サービス 

三菱UFJ銀行ニュースリリース:アルムナイネットワークの構築について

サイボウズ

アルムナイを開始した背景

サイボウズでは2012年から「育自分休暇制度」を導入し、退職後も最長6年は再入社できる権利を保証しています。社員が転職や留学など自分を育てるための会社を離れる選択をしても、再び戻れる安心感を提供する仕組みです。一方でこの仕組は誰でも利用できる制度であるがゆえに、本制度の目的から外れ将来の保険のように使われるケースも増えてきたことから本制度は2024年度末に廃止され、代わりにアルムナイ採用へと移行してきました。

アルムナイとの接点の作り方

2023年末時点でサイボウズの卒業者は2000名を超えたことから、サイボウズの卒業生という共通点で集まるメンバー同士をつなぎ、将来的にそれぞれが活躍する分野で協業できる世界を実現するためにアルムナイコミュニティ(通称CIA)の立ち上げを実施しています。

このアルムナイ専用コミュニティでは、アルムナイ限定でkintone上にコミュニティを形成し、オフィスへの招待やイベント情報の発信をしています。

イベントの模様

2023年7月には東京日本橋オフィスで初のアルムナイイベントを開催し、25名の卒業生が参加しました。参加者同士の自己紹介を経てオフィスの案内をするなど、卒業生同士の接点づくりやサイボウズとの接点づくりに取り組んでいます。卒業生を再度採用することを前提と置いておらず、ゆえに当日の進行も採用チームとは別のメンバーが担うなどサイボウズのカラーが出ていると感じます。

参考:第一回「アルムナイの集まり」を開催しました|サイボウズの舞台裏

まとめ

アルムナイ制度は、退職者との関係を資産として活用できる、費用対効果の高い人事施策です。新卒採用や中途採用に比べて母集団形成や教育コストが抑えられ、再雇用による即戦力確保やリファラル採用の拡大に直結します。専用プラットフォームやニュースレター、イベント開催など、比較的リーズナブルに開始できる点も魅力です。人的資本経営が求められる今、アルムナイは採用強化と離職率抑制を同時に実現する有効な戦略であり、企業の持続的成長を支える重要な仕組みといえるでしょう。

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