1. なぜいま「1on1」が求められているのか?
市場・労働環境の変化
近年、企業を取り巻く環境はかつてない速さで変化しています。少子高齢化による労働人口の減少、個人のキャリア志向の多様化、テレワークの普及など、従来型のマネジメントだけでは社員のエンゲージメントや成長支援が難しくなっています。
また、人的資本経営やウェルビーイング経営が広まり、「社員一人ひとりの成長や主体性」が企業価値の向上に直結する時代へと移行しています。
このような背景の中で、マネジャーと部下が定期的に対話する「1on1ミーティング」が注目を集めています。
マネジメントの変化と1on1の位置づけ
従来、上司と部下のコミュニケーションは「業務報告」「進捗確認」が主でした。しかし現在は、
- 部下の内面やキャリアに関心を持つ「支援型マネジメント」
- 一人ひとりの思考・感情・価値観にアプローチする「関係性重視型マネジメント」
が重要視され、その実践手段として1on1が不可欠となっています。
2. 1on1とは何か?どのような効果があるのか?
1on1ミーティングの定義
1on1とは、上司と部下が定期的に1対1で対話を行う時間のことです。目的は「指示・報告」ではなく、部下の話を聴き、信頼関係を築きながら、成長やキャリア支援を行うことにあります。
Googleが社内調査の中で「心理的安全性」が高いチームの特徴として1on1を実施していることを挙げるなど、グローバルでも高い評価を得ています。
期待される効果
観点 | 効果 |
---|---|
個人 | ・自己理解の促進 ・目標やキャリアの明確化 ・安心して相談できる環境形成 |
上司 | ・部下の強み・課題を深く理解できる ・育成視点が身につく ・組織運営上の気づきが得られる |
組織 | ・エンゲージメントの向上 ・離職率の低下 ・心理的安全性のある職場づくり |
3. 1on1を成功させるための実施方法とポイント
実施頻度と時間の目安
多くの企業では、2週に1回〜月1回程度・30分〜1時間の枠で定期的に行われています。重要なのは「定期的に継続する」こと。忙しさに流されて形骸化しない仕組み作りが必要です。
アジェンダ例(目的に応じて柔軟に)
目的 | 質問例 |
---|---|
最近の様子の確認 | 「最近のコンディションはどう?」 「今、何に一番力を入れてる?」 |
業務の進捗と課題 | 「うまくいっている点は?」 「何か困っていることはある?」 |
成長支援・キャリア | 「この先、やってみたい仕事は?」 「今、学びたいことは何?」 |
関係性構築 | 「最近嬉しかったことは?」 「最近気になったニュースある?」 |
ポイントは、「上司が話す」のではなく、部下に話してもらう時間にすること。傾聴の姿勢が何よりも大切です。
4. 1on1の導入・運用上の注意点
上司のスキル育成がカギ
1on1を導入しても、上司が「ただ業務確認をするだけ」「アドバイスを押し付ける」ようでは逆効果になる恐れがあります。そのため、以下のようなスキルが必要です。
- 傾聴スキル:遮らず、受け止め、うなずき、繰り返す
- 質問力:答えを与えるのではなく、問いかけによって自ら気づきを促す
- 共感・承認:成果ではなく、プロセスや努力に対しても承認する
1on1の成果は、上司の姿勢に大きく左右されます。企業としては、管理職への1on1研修やコーチング研修の実施が重要です。
実施後のアクションで信頼を深める
1on1は「話す場」で終わってはいけません。部下から出た意見や希望に対して、何らかのアクションやフィードバックを返すことで、「話してよかった」と思ってもらえる信頼関係につながります。
5. 事例:1on1導入で変化を生んだ企業の取り組み
ヤフー株式会社
- 2012年から全社員に対して1on1を導入。
- 実施頻度は週1回・30分間。実施数は年間50万回を超えるとも言われる。
- 成果として、心理的安全性の向上、上司部下間の信頼関係構築、若手社員のエンゲージメント向上が報告されている。
Sansan株式会社
- 部門ごとに1on1のスタイルを最適化。
- 「対話のログ」を共有し、組織全体でフィードバックを促進する設計に。
- 対話から出たアイデアが新事業につながった事例も。
6. まとめ:1on1は“対話”による組織変革の原点
「業務指示を出す」「成果を求める」といったマネジメントだけでは、社員の心は動かせない時代です。
信頼関係に基づいた“対話”こそが、人と組織の可能性を引き出すカギです。
1on1は一見シンプルな仕組みですが、
- 定期的な実施
- 上司のマインドセットとスキル
- 対話を生かす文化づくり
を丁寧に行うことで、組織に深く根付き、社員の成長と事業成果の両立を後押しします。
「部下の話をじっくり聞く時間」を持つことが、最大のマネジメント施策――そんな時代が本格的に訪れています。
コメント