働き方の多様化やチームによる価値創出が重視される現代において、企業の生産性や創造性を左右する要素として注目されているのが「心理的安全性」です。
Googleのプロジェクト「Aristotle(アリストテレス)」でその重要性が明らかになって以来、日本企業でも注目度が高まっています。
しかし、「心理的安全性が重要だ」と言われても、実際に何に対してどのように取り組んでいけばいいのか悩んでいる人事担当者・マネジメント層も多いのではないでしょうか。
本記事では、心理的安全性の定義と効果、そして高めるための実践施策について、具体的に解説していきます。
■ Google「アリストテレス・プロジェクト」で注目
2012年、Googleでは「最も成果を出しているチームにはどんな特徴があるのか?」という問いに答えるため、180を超えるチームの行動・特性・成果データを数年にわたり分析しました。
この大規模な調査・研究が「アリストテレス・プロジェクト(Project Aristotle)」と呼ばれる取り組みです。(プロジェクト名の由来は「全体は部分の総和に勝る」というアリストテレスの言葉から名づけられたそうです。)
■ Googleが見つけた「成果を上げるチームの5つの鍵」
プロジェクトによる調査・分析の結果、パフォーマンスの高いチームには以下次の5つの共通項があることが判明しました。
- 心理的安全性(Psychological Safety)
- 信頼性(Dependability)
- 構造と明確さ(Structure and Clarity)
- 仕事の意味(Meaning)
- インパクト(Impact)
このうち、最も重要とされたのが「心理的安全性」です。説明は以降で説明を致しますが、心理的安全性を一言でいえば、このチームであれば自分の意見を自由に発言しても怒られない、恥ずかしくない、という心理的に守られている状態のことです。
■ なぜ心理的安全性が最重要とされたのか?
プロジェクトの分析によって明らかになったのは、チームの知識・スキル・経歴といった“個々の優秀さ”よりも、「安全に発言できる雰囲気」の方がチーム成果に直結していたという事実です。
心理的安全性が高いチームでは:
- 自由にアイデアや疑問を出せる
- ミスを認め、助けを求めやすい
- 他人の意見を受け止めようとする
これにより、
- 学習が早い
- 問題発見が早い
- 創造的な解決策が出やすい
という成果に結びついていたのです。逆に、いくら個々が優秀でも、
- 批判を恐れて黙る
- ミスを隠す
- 上司の顔色を伺う
といった「発言を控える文化」があると、知識が共有されず、チームの力が発揮できないことが明らかになりました。
■ 心理的安全性とは?
つまり心理的安全性(Psychological Safety)というのは、「チームの中で自分の意見や考えを率直に話しても、罰せられたり、恥をかいたりすることがないと感じられる状態」のことです。
この概念は、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱しました。彼女は、心理的安全性が高いチームでは、失敗や意見の違いを恐れず、自由に発言できるため、学習や創造性が促進されるとしています。
■ 心理的安全性があるとどうなる?得られる具体的なメリット
心理的安全性が高いチームには、以下のような効果が確認されています。
チームの生産性が向上する
意見が自由に言えることで、課題の早期発見・迅速な改善策の共有が進みます。結果として、意思決定の質やスピードが向上し、生産性が高まります。
エンゲージメント(仕事への没頭感)が高まる
安心して働ける環境では、ストレスが減り、組織への信頼感が強まるため、離職の防止につながります。更に言えば自己肯定感や成長実感につながり、加えてメンバーが他者にも積極的に関わろうとする意欲も強くなるため、エンゲージメントの向上にも貢献されます。
イノベーションや変革が生まれやすくなる
遠慮ない自由な意思表示やそれに対する議論が展開されることで、新しいアイディアが活発に出るようになります。創造性を求められるチームには必須の土台です。
■ 心理的安全性を高めるための実践施策5選
1on1ミーティングの質を高める
定期的な1on1は、上司と部下が本音で話す貴重な機会です。傾聴・共感の姿勢を徹底し、部下が「話していいんだ」と思える土台を作ることが重要です。
ポイント:
- アジェンダを設けず雑談から始める
- フィードバックは「行動」にフォーカスする(人格否定をしない)
- 上司側も弱みや失敗談あるいはプライベートの情報等を共有することで“対等さ”を演出
“賞賛”する文化をつくる
「失敗を恐れて挑戦できない」という状況は、心理的安全性の欠如を示します。失敗も学びとして評価する文化を根付かせることで、チャレンジが生まれます。
具体例:
- 「チャレンジ賞」「ナイストライ賞」の導入
- 朝会や社内報で「失敗から得た学び」を共有する
リアクションの質を見直す
会議中やチャットなどで、意見に対するリアクションが冷たい・否定的だと、孤立感が増すとともにチームに対する帰属意識が薄くなり心理的安全性は低下します。そこで以下について意識的に実践することも有効です。
留意すること:
- 否定よりも「肯定→加える意見」の順で伝える(例:「なるほど、それもありますね。その上で、こんな観点もありそうです」)よく言うyes,butに習い、まずは肯定から入るのが大切です。
- 表情や声のトーンも意識し、「あなたの意見に価値や意味がある」というのを伝える工夫も効果的でしょう。
■ まとめ:心理的安全性は“文化”として醸成するもの
心理的安全性は一朝一夕で築けるものではありません。日々のコミュニケーションや組織文化の積み重ねによって少しずつ育まれるものです。
人事としては、単なる施策の導入だけでなく、
- 管理職教育への反映
- チームビルディング支援
- 社内フィードバック文化の設計
等を通じて、この文化を根付かせていく必要があります。
市場競争が激化し、社員の流動性も一層激しくなっている今だからこそ、心理的安全性は「働きやすさ」や「成果」に直結する極めて重要なテーマです。ぜひ貴社でも、この機会に取り組みを見直してみてはいかがでしょうか。
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