人事という職種に、どのような印象を持っているでしょうか。
社員に寄り添う仕事、社員の悩み事や相談に乗る仕事、会社と現場の社員をつなぐ橋渡し役…。そうしたイメージは間違いではありません。
しかし実際の人事の仕事は、それ以上に「組織や事業の中核をつくる権限と責任を持った仕事」だと考えています。
採用、育成、評価、昇格、異動、退職といった、人材に関するすべてのライフサイクルに介入し、その意思決定を行うのが人事だからです。
もっと露骨に言えば、社員からは”私の昇格や異動を決める人”と見えるわけです。
だからこそ、人事にどのような社員を配置するのかはポリシーをもって決定されるべきです。
また、人事というのは、オペレーショナルに定型化された業務を淡々と行うものではなく、常に数年後を見据え、人員計画を立て、市場変化をにらみ、あらゆる人事戦略を立てるという、戦略人事として非常に頭を使う職種です。
だからこそ、私はこう考えています。
人事は、自ら希望してなる職種ではない。
会社や事業の発展のために、事業第一線で圧倒的に成果を出している人材を登用するべきである、と。
どのような人材が”人事”には適任なのか。配置と昇格から考える。
先に挙げたように、人事が担うミッションの1つに「配置」や「昇格」があります。いずれも社員目線では、今後の会社人生において相当の影響を及ぼす重要なイベントです。
本対応を担うからこそ、どのような社員が人事として相応しいかを考える必要があります。
配置
社員が、会社人事において何度も経験するであろう「異動」も、人事が具体的に担う役割の一つです。
異動調整を実施する際、多くの人事担当者では、本人の希望やこれまでの経験を踏まえて異動先の調整をしていることと思います。
また会社の規模が大きくなればなるほど、人気ポストと不人気ポストが出てくるのも事実です。
そのため、特定のポストへの異動希望が多く集まり、そのポストへ配置が叶った社員は良いものの、希望がかなわず希望と異なるポストへの配置となった社員は、
「なぜ私はこのポストへ異動させられたんだろう」
「私じゃなくてもよいのに、なんで私なの」
と考えるようになり、人事への不信感やモチベーション低下につながる、という事象が散見されます。
結論、このような社員感情をゼロにするのは難しいと考えています。
組織の安定的な体制維持や事業強化のためには、ときとして、社員の希望とは無関係に配置を行う必要があるためです。
一方で大切なのは「何を期待して、そのポストに配置を行ったか」「ほかの人ではなくなぜあなたを配置したのか」について一人ひとりの社員に説明できるほど、悩んで、考えた配置でなければなりません。
考え悩みぬくというのは、社員一人ひとりの適性やスキル、今後の中期的なCDPを前提に置きつつ、一方では事業で求める人材要件を基にしたマッチングを最大化する、ということです。
そのため、配置調整を担う人事は、「事業やその事業に従事する社員を誰よりも理解している人材」が適任だと考えています。
「〇〇さんは、サービス開発経験に加えて法人営業経験もあるし数字にも強い。新たに立ち上げる事業戦略策定業務においても自らの経験踏まえて実態に即した数値目標を立てられるだろう。本人も現業歴が長期化していて、成長に頭打ち感をもってきている。今回のタイミングで本ポジションに異動させてあげたい」
そこまで考えて人事を預かってほしいのです。もっと言えば、ここまで考えたからこそ、社員ひとりひとりに配置した目的や期待することを社員に動機づけできるのです。
昇格
あるいは昇格の際に人事が面談を実施している企業も多いのではないでしょうか。私の会社では社員を横通しで評価する観点から、我々人事が昇格者の面談を実施しています。
昇格は社員からみれば、今後の仕事のモチベーションに直結するイベントです。
そんな昇格を、「自分がよく知らない人に判断された」「この人私の事業を理解していないくせに、昇格を決定しているのか」「面談の数十分程度で自分の話を理解してもらえたか手ごたえがない」そう思われたら社員のモチベーションは相当に下がるでしょうし、人事に対する信頼も揺らぎます。
だからこそ、人事は圧倒的に現場で成果を出してきた人が担うべきなのです。
「□□さん目線で自分がまだ昇格が早いというのであれば納得できる」
「事業を理解している□□さんだから、昇格選考のために準備した小手先の話では通用しなかった」
「□□さんに認めてもらったのは、純粋にうれしい、やる気が出る」
そう思わせるものでなければなりません。
昇格する社員も、昇格見送りとなる社員に対しても、どちらも社員目線で納得度の高い評価を昇格プロセスにおいて実施することが大切です。
ゆえに昇格を担う人事については「事業において圧倒的に成果を創出している人材」である必要があります。
事業一線で苦悩や成功を経験している人だからこそ、事業や人材を評価できる
現場で醸成される苦悩や成功体験が重要
人事は、社員一人ひとりの事情や希望に寄り添うと同時に、「会社全体にとって何がベストか」を考える必要があります。この経営視点がなければ、人事はただの“個別対応係”になってしまいます。
そして、この経営視点は、会議室の中では育ちません。
現場で商品を売り、サービスを届け、顧客と向き合い、数字に責任を持ち、メンバーを束ねる——そうした“事業のリアル”の中でしか得られないのです。
たとえば、赤字が続く事業部の立て直しを命じられ、メンバーの再配置や新たな戦略を立案した経験がある人なら、「組織のどこをどう変えるべきか」という思考が自然と身についているはずです。
そういう人材こそ、人事として最も価値のある存在だと私は思います。
まとめ:人事にふさわしい人材とは
ここまでで述べてきたように、人事とは、社員が会社人生で経験する重要なイベントの決定権を有する立場であるからこそ、以下のような人材が適任だと考えています。
- 事業やその事業に従事する社員を誰よりも理解している人材
- 事業において圧倒的に成果を創出している人材
そのため、人事という職務は、希望している社員を配置させることは念頭に置かず、上記観点で社員から人選を行い、指名的に配置するのが最も有効だと考えています。
もちろん人事を経験してきた私目線での持論であり、多様な考え方があると思いますので、1つの参考として捉えていただけますと幸いです。
おわりに:人事は「経営の代理人」である
人事という職は、「人の人生を左右する仕事」であると同時に、「会社の未来を形づくる仕事」でもあります。その責任は極めて重く、繊細で、複雑です。
だからこそ私は、人事は希望してなるのではなく、選ばれてなるべきポストだと考えます。
選ばれるべきは、現場で結果を出し、人と組織に対して深い洞察を持ち、経営と社員の両方に真摯に向き合える人材です。
そのような人が人事に就くことで、初めて「人を活かす組織」は実現する。
それが、これからの時代に求められる人事の在り方ではないでしょうか。
コメント