「適材適所」という言葉は、過去からよく使われてきた言葉で、こと人事という観点においても、人材配置や組織の安定的な運営を行う目線から広く使われてきました。
しかし近年、「適所適材」という新しい考え方が誕生し、広まりをみせています。言葉としては似ているものの、意味やアプローチは明確な違いがあります。
本記事では、それぞれの概念の意味や効果、そして組織運営における違いや利点について解説します。
1. 適材適所とは
「適材適所」は、人材に着目する考え方で、「その人の持つ能力や適性を踏まえ、最も力を発揮できる場所(ポジション)に対して配置する」という考え方です。個人の能力・経験・性格・スキル等を評価した上で、その特性を最も発揮できるようなポジションに配置する際に利用してきた言葉です。
【利点】
- 人材が持つ能力やスキルを最大限に活かせる
- 業務アンマッチのリスクは少なく、高いモチベーションで業務に取り組める
- 業務の生産性・成果の向上が期待できる
【効果】
人材の持つスキルを業務に対して発揮してもらうことで、組織の生産性が上がり、従業員の満足度やエンゲージメント向上にも寄与するものです。そのため、販売成果等の最大化や離職率の低下にもつながるため、長期的な人材育成・事業貢献が期待できます。
2. 適所適材とは
一方で「適所適材」は、ポジションに注目する考え方です。「ポジションごとに、求められる役割や必要とするスキル・経験等のポジションの要件を定義し、その要件を満たす最適な人材を配置する」というポスト先行型でのアプローチです。先に“ポジション(適所)”ありきで、その役割を果たせる“人材(適材)”をあとからはめていくという発想です。
【利点】
- 組織全体の戦略や機能・役割に合わせた人材配置が可能
- 業務上のニーズを優先した人員配置ができる
- 適性に基づく人選であり、業務上の成果最大化が期待できる
- 抜擢登用など人事に柔軟性が生まれる
【効果】
ポジションに求められるスキルや資質を明確にする過程で、組織やそれぞれのポジションの持つ意味について見つめなおすことができ、ポジションの数やバランスの適正化が期待できます。
加えて、既存の人材の中から最もマッチする人を選ぶため、全体最適の配置が実現しやすく、変化の激しい現代の組織にフィットする考え方とも言えます。さらにはポジションに適した人材を計画的に育成する観点から、スキルや専門性の向上を目的とした体系的・効果的な人材育成も可能となります。
3. 適材適所と適所適材の違い、適所適材が必要とされる背景
観点 | 適材適所 | 適所適材 |
---|---|---|
出発点 | 人(個人の特性) | 役割(ポジションの要件) |
アプローチ | 個人に合う場所を探す | 役割に合う人を探す |
目的 | 個人の能力発揮 | 組織ニーズとの整合性 |
柔軟性 | キャリア志向に寄る | 組織視点が中心 |
従来は、個人の長所を活かす「適材適所」が重要視されてきました。これは年功序列や長期雇用を前提とする日本型雇用と相性が良いものでした。しかし、市場変化が激しい現代では、市場での競争に勝つためにスピード感をもって、新たな事業挑戦や従来の業務の見直し等を図る必要性が発生しています。
その実現のために、各組織ごとにどのような役割をどれだけ持たせるのか、という着眼で組織や人材を捉えるよう変化しており、そのため「どのポジションに、どんな人が必要か」という適所適材視点が一層重視されるようになっていると感じます。
4. 適所適材を一層進めるために必要なこと
適所適材はポジション先行型での人事思想であることをお伝えいたしました。ではこの考え方を実現するために必要となる取組として、どのようなものがあげられるでしょうか。
- 能力重視の人材登用
年齢に寄らず、実力が発揮できる人材を積極的に登用することが必要となります。そのため抜擢として若い社員に重要ポジションを任せることや、これまでの業務経験ではなく適性を鑑みたチャレンジングな配置の決断を行うことも重要です。 - リスキリング
一人の社員が持つスキルや能力が重要となることから、重要ポジションで成果を出すうえで必要となるスキルを定義した暁には、そのスキルを要する人材を計画的に育成することが重要です。そのためには社員がこれまで培ってきたスキルとは別に、戦略的育成計画を立てることが必要です。
5. どちらが正解か? 両立の視点
「適材適所」と「適所適材」は、択一的な選択肢ではありません。もっといえば対立する考え方ではなく、ケースと事業背景に応じて、使い分けることが効果的です。
そのため、人材データベースやタレントマネジメントシステムを活用し、社員のスキルや志向を可視化しながら、組織と事業のニーズに沿った配置を行うことを意識します。
私の会社でも、昇格が早く将来の事業リーダーとしてのCDPが期待できる社員については、適所適材的な配置を、事業運営を支える経験豊富なベテラン社員に対しては適材適所的な配置を実施しています。そうすることで、自身が会社から何を期待されているのかを考える契機にもなると考えています。
6. まとめ
「適材適所」は“人”に着目し、「適所適材」は“ポジション”に注目する人材配置の考え方です。どちらか一方を選択するのではなく、どのようなシーンにどちらの配置の考え方をするかについて、事前に検討しておく必要があります。市場の変化に即した強い人材・組織の開発に向け、まずはあなたの会社の配置の考え方を見つめなおすことから着手してみてはいかがでしょうか。
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