近年、従業員のエンゲージメント向上が叫ばれています。特に大手企業を中心に、社員ひとりひとりが担うべき業務が適切に定義されている会社については、社員の裁量や業務の自由度が限定され、ゆえに見えないところで社員のモチベーションが低下している可能性もあります。
そのため社員のエンゲージメントを適切に捉え、必要な課題を把握し、一人ひとりが高い意識をもって業務に取り組むことができるようその調査~打ち手までをサイクル的に整備しておく必要性が発生しているのです。
ここではエンゲージメントを把握することがなぜ必要なのか、どのような課題を把握できるのか、課題があった場合にどのようにして解決することができるのかについて、私の人事としての取り組みも含めながら紹介します。
従業員エンゲージメントとはなにか
従業員エンゲージメント(社員エンゲージメント)とは、従業員が企業や事業にどれだけ積極的・能動的に関与し、仕事に対して熱意を持っているかを示す指標のことです。
そのため、従業員満足度(EX)とは異なり、会社の理念や事業・目標等の方向性にどれだけ共感し、主体的に貢献しようとしているかを評価する指標であり、本指標が高いほど、持続的に事業運営ができていると評価できるものになります。
エンゲージメントを構成する要素
では、エンゲージメントについてはどのような要素から構成されるのでしょうか。一般的には、以下の要素が挙げられます。
- 仕事の意義や目的に対する理解・共感
- キャリア成長や学習機会の提供
- 評価や報酬に対する納得感
- 人間関係やチームワークの良好さ
- 働き方の柔軟性
- 組織の文化や価値観に対する共感性
これらの要素について、それぞれ一人ひとりの社員がどのように捉えているのかを適切に把握することが必要となることから、多くの企業では、「エンゲージメント調査」と題して、年に1度様々な設問を用意したアンケートを用いて、社員一人ひとりに回答させる手法をとっています。
大切なのは会社からその社員がどう見えているか、ではなく、社員が会社をどう思っているかを自ら意思表示させることです。
そのため、回答については多くの場合匿名で実施しています。
匿名で回答させることで、本音での評価を引き出すことが重要である一方で、私の企業では、回答する際に「法人営業」「財務」「製造」といった現業の職種や、年齢、性別、についてもあわせて回答をしてもらっています。
エンゲージメント調査の結果を分析する際に、どのようなセグメントの社員についてはどのような特徴が出ているか、といった観点から現業での課題有無を把握する必要があるためです。
たとえば法人営業は性別問わず働きやすさの満足度が高い一方で、製造部門では女性の満足度が著しく低い、といった結果も起こりえます。必要な打ち手を検討するうえで、分析に資する観点も盛り込んでおく必要があります。
従業員エンゲージメントの把握は、なぜ必要か
シンプルにいえば社員がモチベーション高く業務に従事できている状態では、その組織の生産性は高く、また新しい取り組みやこれまで避けてきた面倒な挑戦についても、積極的に取り組んでいこうという文化が形成されることは想像できると思います。エンゲージメントの必要性を具体的にあげると以下のような点があります。
- 生産性の向上
- イノベーションの促進
- 離職率の低減
- 顧客満足度の向上
色々記載しましたが、一言でいえば、高い事業貢献が期待されるのです。逆にエンゲージメントが低い場合には、社員が業務に対するモチベーションが低いことを表しており、言われたことしかやらない風習が根付き、意欲ある社員は転職して市場へ流出していくことも想像いただけると思います。
エンゲージメント向上のために
エンゲージメントを維持・向上させていく必要性についてはここまでご理解いただけたと思います。
ではエンゲージメントを向上させていくためにはどのような取り組みが有効か以下に記載します。
- 学習機会の提供とキャリア形成支援の仕組みを用意する
- 評価基準や報酬の仕組みについて、社員に開示し透明性を推進する
- 組織間・社員間のコミュニケーションを強化する
- 社員が会社の理念や事業の方向性に納得できる仕組みを用意する
これだけだと概念的で具体のアクションが検討しにくいと思いますので、それぞれについて具体的に記載します。
1. 学習機会の提供とキャリア形成支援の仕組みを用意する
社員の成長を促す仕組みとして、研修プログラムを用意したり、資格取得の際に会社から奨励金を支給することは有効な打ち手となります。
加えて、社員自らが今後の自身のキャリアを考えることを推進するために、メンター制(先輩社員が後輩社員のメンターとなる仕組み)の導入やキャリアコンサルタントに対するキャリア相談機会を開いておくことも重要でしょう。
更に言えば会社が決めるのではなく社員が決める仕組みを作ることも有効です。
具体的には「公募」を活用することで、社員自らが異動先組織を選択し、異動を決定する運用も有意義です。
大切なのは仕組を用意することであって、社員にその利用を強制しないことです。意欲ある社員が活用できるものを用意しておくことこそ、人事が担う役割です。もっと言えば、社員に意欲を出させるための仕掛けを行うことも重要です。
2. 評価基準や報酬の仕組みについて、社員に開示し透明性を推進する
社員の業績がどのような評価につながるのかを明示的に示すことは重要です。
昨今、相対評価ではなく絶対評価を導入する企業も増加しています。特に評価や昇格について、実力主義での登用が進んでいることについては以下記事でも記載した通りです。
評価を絶対評価にすることは、社員にとって、ここまで成果を出したらこういう評価である、という基準値を開示し、その基準に基づき機械的に評価をつけるものであるため、社員目線でも納得度が一定あり、自身の中で消化できるという点ては有意義でしょう。
あるいは評価に紐づく目標について、主観が介在しないよう定量的な数値をもって、適切に目標設定することは極めて大切です。
たとえば「ユーザを新規に開拓すること」という目標設定は悪い例です。
新規開拓のために、自らユーザ接点を作り、10社とアプローチしたが受注までつながることはなかった、というケースがあったとしましょう。
その取り組みをした社員目線では、行動面で努力し今後の活動に対する示唆を得られたという観点では評価されることが妥当と考えるかもしれません。一方で上長目線では、結局新規の収入は得られなかったという結果面に着目し、本目標に対しては未達として評価をつけるでしょう。
そのため主観が介在せず、両社で解釈が揃うようにするためには「ユーザを新規に開拓すること」という目標設定ではなく、「これまで取引実績のないユーザから新規契約を年間3件以上受注し、利益ベースで約2,000万円の成果を創出すること」という目標を立てることが望ましいです。
このように、評価やそれに紐づく報酬に対する納得度を上げるためのカギは、目標設定であり、基準値のオープン化にあります。
3. 組織間・社員間のコミュニケーションを強化する
社員間のコミュニケーションを活性化するために有効な仕掛けとして、どのようなものがあるでしょう。業務、特に前例に乏しいようなプロジェクト対応を行う上では、他部署も含めたチームでの対応が必要となる一方で、同じ会社にいるにもかかわらず、関係性が薄いがゆえに互いに気を遣ってうまく業務が回らないケースもあります。
そのため組織間や社員間のコミュニケーションを活性化するためには「小集団活動」が有効であると考えています。
小集団活動は、1つのテーマを基に組織横断でメンバーを招集しチームを編成、以降の検討をそのチームが責任をもって実施する活動を指します。
私の会社でも、規模の大小問わず数百の小集団活動が常に動いており、社内の掲示板でいつでも手を上げ志願したり、他の活動を確認することができるようになっています。
こうした業務に直結しない、会社側で用意した仕掛けを活用してもらうことで、日ごろから部署の垣根を超えた交流が発生することになり、その結果会社に対する帰属意識も向上しエンゲージメントがより良くなるのです。
4. 社員が会社の理念や事業の方向性に納得できる仕組みを用意する
最後に、私はこの取り組みが最も需要かつ、社員への浸透が一番難しいものであると考えています。
キレイごとのように聞こえるかもしれませんが、事業の理念や事業の方向性を社員一人ひとりに共感してもらうためには、まず会社のトップが自らの口で各組織での事業の展望や重要性について言語化することが必要であると考えています。
会社は年度当初に事業計画を立てます。もっといえば中期経営計画を立てている会社もあるはずです。
その中では、事業の取捨選択や、シュリンクしていく領域と強化していく領域についても戦略的に検討があるはずです。強化する事業領域に注目が集まるのはある種自然なことですが、今後縮退していく事業領域に従事している社員から言えば、自らの業務は日陰となり、スポットライトが当たることもないとなればエンゲージメントは下がる一方でしょう。
そういった社員が何に直面し、どのような苦労を重ねながら、日々どういった感情を持ちながら業務に取り組んでいるのか。こういった社員の実情にも耳を傾けながら、本事業の展望が今後の他の事業にどう生きてくるのかをトップ自らが語り、社員の士気を向上させることも重要です。
最近では「パーパス」という会社が目指すべき方向性や理念を具体的な言語で設定する会社も増えてきています。これは社員一人ひとりがいつでも原点回帰できるという点で非常に有意義であると感じています。
私の会社では、会社の理念や事業の展望等について、社員の選抜施策や昇格選考において必ず社員に問うようにしています。一言違わず語れることを評価するのではなく、会社が目指すべき姿が目の前にいる社員にもしっかり伝わっているのかを確認することが目的です。
社員目線では仮にうまく応えることができなかったとしても、その際に改めて会社理念に立ち戻る、というサイクルを生み出すことができます。こうした気づきの契機を意識的に設けることも忘れないでいただけるとよいと思います。
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