サクセッションプランというのは、企業を安定的に維持・成長させていくために必要となる「後継者育成計画」を指します。アメリカ発祥の考え方で、1950年代にはすでに広く認知された運用であるとされています。
サクセッションプランについても、近年の戦略人事の主検討テーマとして位置づけられることが多く、その必要性や具体的な運用について考えてみましょう。
サクセッションプランの必要性と整備状況
サクセッションプランは、会社の経営層や組織長といった重要ポストの後継者を見定め、リーダーとしての役割を果たすことができるよう、必要な資質や経験について体系的に育成することを指します。
例えば、ある職位の重要ポストが空位になった際に、その時点から適材を探し、配置調整をしていたのでは対応が遅く事業に損失が発生していまいます。そのため当該ポストにふさわさい人材を、予めプールし、必要な育成をしておくことが求められます。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2023年11月に実施した調査では、プライム市場上場企業76社に対し調査を行っており、経営陣幹部のポストに係る各種取組について以下の通り結果を開示しています。
- 後継者計画のロードマップの立案を実施済の企業:約24%
- 人材要件について設定済:約29%
- 後継者候補の選出:約49%
https://www.murc.jp/news/information/news_240419 (参照:「サクセッションプラン」に関するサーベイ結果【2023年度】について)
本結果からもわかるように、経営幹部を担う人材が積むべきキャリアプランや、求める人材要件を策定できているのは一部の企業に閉じていることがわかります。
例えば財務部長と法人営業部長では、求められる視座や専門性が異なることはイメージにたやすいと思います。そのため単純に上位の職位の人材から順に登用するのではなく、必要となるテクニカルスキルやヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルについて定義し、加えてこれまでの業務従事経験についても一定の基準を設けることが有効です。
サクセッションプランにおける育成
次世代の経営層を担う人材の育成にあたっては、単に高い成果を継続的に上げていることだけが条件とはなりません。経営に近いところで事業の舵取りをするにあたっては、様々な障壁や問題と直面しながら、あらゆる波の中でも事業の進むべき方向性を自ら導き出し、課題解決を行う必要があります。
そのため、需要なポストについては、具体的なスキル要件や業務経験を定義した人材要件書の整備が必要となります。
また、どのような社員を対象として人材管理をしていくべきか、という観点では、一定の職責かつ条件に合致する社員に対しては、事前に越境経験やタフアサインメント経験を求める会社が増えています。
越境経験
会社の垣根を越えて、別の会社の業務に一定期間従事したり、グローバルポストで文化や商習慣が異なる環境下において業務経験を積むなど、自分の専門領域や慣れた環境とは異なる領域で経験を積むことを越境経験といいます。
本経験を通じて、柔軟な思考や新たな視点、そしてリーダーシップや問題解決能力等、経営層を担う上で必要な資質について鍛えます。加えて本社員が自社に戻ってきた際に、自らが変革のための起爆剤となり、他の社員の行動や組織内のルールについて見直しを図ることで、組織全体のイノベーションや競争力が強化されるのです。
タフアサインメント(ハードアサイン)
タフアサインメントとは、負荷の高いタスクや責任あるポストに配置することで、現業を通じて課題解決力を高め、加えて実践的な適応力を醸成することを目的に実施します。
上記越境体験も、広義ではタフアサインメントの一種であるとも解釈できます。対象者の能力値を超える目標やミッションを与え、その達成に向けて取り組むことで、一層の成長を期待します。
そのため、当該社員が志向しているポストや既に経験値を有する事業領域ではなく、むしろ本人が志向していない、または希望していないポストに対し、意図的に配置し、その活躍度合いに基づいて今後の後継者候補として管理を継続するかを考えるのです。
近年広く社員に対し叫ばれる「キャリアオーナーシップ」とは一線を画し、会社が今後の経営層を戦略的に育成していくために実施する会社主導でのキャリア形成支援となるのです。
キーポストの選定
では、上述する経験を積ませるためにはどのような準備をしておくのがよいでしょうか。
結論としては、自社の経営戦略において欠かすことのできないキーポストについて選定しておく必要があります。加えて、そのポストでの業務経験を通じて醸成できるスキルについてもあわせて言語化しておくことが必要です。
例えば経営層になると事業単位で収支状況を把握し、加えて事業をセグメントごとに分解したうえで、事業単位でポートフォリオを検討することが求められます。
つまり一定の財務的知見や、会社レベルでの高い視座、社内外の人脈が必要となることから、サクセッションプランで定めるキーポストにおいて、これらのスキル育成を目指します。
まとめ
このようにサクセッションプランにおいては、経営戦略上重要となるキーポストを定義し、それぞれの職務を果たす人材に求める能力・資質を明確にし、それらの獲得を支援するための育成を体系的に実施することが重要となるのです。
今後、サクセッションプランに基づく人材育成を実施している企業の事例についても取り上げていきたいと思います。
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